ある一定期間内に、同じようなネーミングや同じような発想の商標が多く商標登録出願されることがあります。
例えば、少し、いや相当前になりますが、オリンピックを東京に誘致する際に、「おもてなし」という言葉が使われ、流行語となりましたが、当時、「おもてなし」という言葉を含む商標がたくさん商標登録出願されました。
このように、その時トレンドとなっている言葉そのものや、その言葉を文字ったり、その言葉を含む商標が多く商標登録出願されることがあります。
これを「商標出願のトレンド」とでも呼ぶとすると、昨今のコロナ禍において、どのような商標が多く商標登録出願されているのでしょうか?
コロナ禍における商標出願のトレンドは?
個人的には、パッと思い浮かぶのは、「リモート」や「オンライン」或いは「マスク」といったキーワードです。
ちなみに、「リモート」に関しては、以前、本ブログでも触れました。(「アフターコロナの商標登録の展望」)
そのため、本稿では、「マスク」について見てみたいと思います。
「マスク」の文字を含む商標の出願動向は?
まずは、「マスク」の文字を含む商標の出願件数を調べてみました。
新型コロナウイルスが話題になり始めた2020年1月1日以降に特許庁に商標登録出願された「マスク」を含む商標の出願件数は360件です。
これでは、360件がどの程度の件数かわかりにくいので、2019年12月31日以前に特許庁に商標登録出願された「マスク」を含む商標登録出願件数も調べました。
結果は、1,835件です(特許庁提供データベース「J-PlatPat」にて可能な範囲で調査した数字です。)。この1,835件で最も古いのは、1950年に商標登録出願されたものです。
ですので、単純に考えると、2019年以前では、約70年間で1,835件の出願件数であったのが、2020年1月からの約半年間で360件なので、この半年間での「マスク」関連商標の出願件数は相当多いと考えることができると思います。
最近の「マスク」商標はどのような内容か?
ちなみに、念のため、お断りしておきますが、上で出願件数を紹介した「マスク」商標は、全てがマスクという商品についての商標であるとは限りません。例えば、「マスク」という文字を含む商標ではありますが、化粧品や食品等の商標であることもあり得ます。
以下でご紹介する「マスク」商標は、いわゆる通常のマスク(堅苦しい表現をすると、衛生用マスク)についてのものになります。
2020年1月1日以降に出願された「マスク」商標360件のうち、「衛生用マスク」についての商標は285件です。
まずは、別々の商標登録出願人ですが、全く同じ商標が複数出願されているものをご紹介します。
「水着マスク」・・・2件
「美人マスク」・・・3件
「清涼マスク」・・・2件
「水マスク」・・・2件
「冷やしマスク」・・・4件
「ひんやりマスク」・・・2件
「夏マスク」・・・3件
「ひんやり夏用マスク」・・・2件
短期間のうちに同じような商標が多く出願されていますので、このように、全く同じ商標が重複して商標登録出願されてしまうことも珍しくはありません。
商標登録出願を行う前には、事前に商標調査を行って、既に同じような商標が他人に出願されていないか等を調べるのが一般的ですが、直前の数か月間のデータは、商標調査のためのデータベースに反映されていない場合があるので、調べることができないときがあるためです。
上でご紹介した「清涼マスク」、「水マスク」、「冷やしマスク」、「ひんやりマスク」、「夏マスク」は、夏にマスクを着用すると余計に暑くなるので、暑さを緩和できるマスク商品を連想させる商標になっています。
このような趣旨の商標は、他にも次のようなものが商標出願されています。
「モイスチャーマスク」
「マイナス2℃サマーマスク」
「サマーマスク」
「涼やか絹マスク」
「夏用マスク」
「ウォーターマスク」
「ウォータークールマスク」
「ウェットマスク」
「ウォーターインマスク」
「冷感マスク」
「ナツノマスク」
「水冷マスク」
「NS 冷感夏マスク」
「ひやマスク/HIYAMASK」
「ひんやり夏マスク」
「空冷マスク」
「水DEマスク」
「ひんやりマスクミント」
「水着マスク」が2件出願されていますが、このようにマスクの特徴的な素材を連想させる商標は、他にも次のようなものが商標登録出願されています。
「天使のシルクマスク」
「ハンカチマスク」
「包帯マスク」
「ランジェリーマスク」
「下着マスク」
「布マスク」
「不織布マスク」
「さらっと/和紙マスク」
「腹巻マスク」
「折り紙マスク/Origami mask」
「フィルターペーパーマスク」
「きものマスク」
以上の他に、繰り返し洗って使えるマスク、運動等をする際の着用に適したマスク、ファッション性を向上させたマスク、着用感が良好なマスクなどのように、マスクの機能な用途を連想させる商標も散見されます。
まとめ
本稿では、トレンドとなっている言葉や商品に関連する商標として、「マスク」の文字を含む商標について、ご紹介しました。
全く同じ商標が複数の商標登録出願人から商標登録出願されていたり、同じような発想によるネーミングの商標が多くあることがおわかり頂けたかと思います。
このような全く同じ商標や同じような類似の商標が複数存在する場合、商標登録され得るのは、最も商標登録出願日が早い商標で、2番目以降の商標は、将来的に、1番早かった商標の商標権を侵害してしまうリスクもあります。
したがって、このようなトレンドの商標を使う場合は、特に、他人の商標権を侵害してしまって、その商標の使用の差止や損害賠償の請求を受けないためにも細心の注意を払うことが大切です。