2018年春の商標審査便覧改訂に伴う商標登録の今後の展望

2018年の春に特許庁における商標審査に利用される「商標審査便覧」が改訂されました。
改訂内容は、幾つかの項目にわたりますが、その改訂内容のうち、特許庁もそのようにアナウンスをしていますが、”商標実務に大きな影響を与える”ものも含まれています。

本稿では、当該影響の大きいと考えられている改訂により、今後の商標登録における影響を考えてみたいと思います。

商標実務に大きな影響を与える改訂とは?

上述した商標審査便覧の改訂で商標実務に大きく影響を与えるのは、商品・役務の類似群のカウント方法と1区分内の類似群の数の制限の変更です。
この改訂の具体的な内容については、前回のブログ(「広い範囲で商標登録が可能になる?」)をご参照頂ければと思います。

念のため、ここでも簡単にご説明します。
商標登録をする際、その商標をどのような商品・サービス(「指定商品・指定役務)に使用するのかを決め、それらの商品・サービスが含まれる商品・サービスの分類である「区分」も決めます。
1つの区分内から選択できる商品・サービスの種類には数的に制限があります(厳密に言うと、一定数を超えると、それらの商品・サービスに当該商標を使用しているかの使用の事実を示す資料の提出を要求されますが、一定数内に収めればそのような資料の提出は不要です。)。
ですので、使用の事実を示す資料を提出できる場合は特に問題はありませんが、提出できない場合は商品・サービスの種類を一定数内に抑える必要があります。
今回の商標審査便覧の改訂では、この”一定数”が変更されました。
具体的には、改訂前は商品・サービスのグルーピング7個までは資料の提出が不要でしたが、グルーピングが8個以上になると資料の提出が必要でした。
これが、今回の改訂により、22個までは提出不要、23個以上で要提出となりました(一部例外あり)。
ざっくりと言うと、この改訂によって、1つの区分内でより多くの種類の商品・サービスを選択できやすくなりました。

以上が今回の商標審査便覧の改訂で実務的に大きな影響を及ぼすもので、直接的な影響としては、上述の通り、商品・サービスをより幅広く指定し易くなった点です。

商品・サービスを幅広く指定すると?

繰り返しになりますが、今回の商標審査便覧の改訂で商品・サービスを幅広く選択しやすくなったことが直接的な影響であるとすると、商品・サービスを幅広く選択しやすくなったことで、どのような影響があるのか、つまり、今回の商標審査便覧の改訂の間接的な影響は何なのか、という点を以下に述べたいと思います。

商標登録出願にあたり、指定商品・指定役務の幅を広くしやすくなったことは、一見ユーザーフレンドリーな改訂にも思えます。確かに、そのような面もありますが、実は、商標ユーザーにとっては不利となることも考えられます。

商標登録が難しくなる可能性

商標登録をしようとする事業者のビジネス内容が確立していて、指定商品・指定役務が確実に特定の範囲内と決まっている場合はともかく、新しくビジネスを始めようとする場合や、とにかくなるべく広い商品・サービスの範囲で商標登録をしたいという事業者もいると考えられます。

そうすると、実際には必要ないかもしれない商品・サービスを指定商品・指定役務とする商標登録が従前よりも増加することが考えられます。
このように、広い範囲の商品・サービスを指定した商標登録が増えていくと、その後から商標登録をしようと考える事業者にとっては、広範な商品・サービスを指定した他者の既登録商標が多数存在しているので、新しく商標登録しようと考えている商標が既に商標登録されてしまっているという事態が増えることが予想されます。(商標が同じでも指定商品・指定役務が異なれば、後から同じ商標を他人が登録することもできる可能性があるのですが、改訂により指定商品・指定役務もカブる可能性が高まり、商標登録ができないというケースです。)

毎年10万件以上、或いは最近では20万件近い商標出願があり、元々、他者の商標とカブっていて商標登録できないというケースは多々あったのですが、今回の商標審査便覧改訂により、こうした弊害が(程度はともかくとして)増加することが予想されます。

不使用取消審判が増える

上述しましたように、”商標登録しようと思っていた商標が既に他人に商標登録されてしまっている”という事態が今後益々増えていくように予想されます。

こうした事態で使われる対抗手段として「不使用取消審判」という制度があります。
不使用取消審判は、大まかに言うと、一定期間使われていない登録商標は、誰でも特許庁に取り消しを求めることができるという制度です。
登録商標全体について取消しを求めることもできますし、使われていない指定商品・指定役務ごとに取消しを求めることもできます。

前述のように、今般の商標審査便覧の改訂により、使われていない商品・サービスも含めて商標登録されるケースが増えると思われますので、不使用取消審判の件数も増えるものと予想されます。

商標審査便覧改訂後の商標実務における対応

以上、商標審査便覧改訂後の直接的・間接的な影響を述べました。
これらを踏まえて、今後の商標実務としては、実際にその商標を使用する商品・役務を指定するのは基本として、将来的に使用可能性のある商品・役務を指定し、明らかに使わないであろう商品・役務は指定せず、むやみに欲張って広い範囲の商品・役務を指定しないのが賢明な対応と考えられます。

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