地質年代の名称を「チバニアン」として、国際学会に申請をしようとしていた日本の研究チームがあるところ、この研究チームとは無関係の個人に「チバニアン」を商標登録されてしまった、という記事を本ブログにも掲載しました(商標登録された「チバニアン」)。
ところが、この登録商標「チバニアン」に対し、国立極地研究所が特許庁に異議申立てを行ったとの報道がなされています。
異議申立てとは?
異議申立ては、特許庁に対し、商標登録を取り消すよう求める手続で、誰でも行うことができます。
ちなみに、異議申立ては、正確には「登録異議の申立て」と言います。特許にも異議申立て制度があるため、それとの混同を防ぐため法律の条文上は「登録異議の申立て」となっています。
異議申立ての1つの注意点は、その登録商標が商標登録されたことを知らせる「商標公報」の発行日から2ケ月以内にする必要がある点です。
この異議申立期限は、中小企業・個人事業主様にはネックとなります。
「チバニアン」のように大きく報道されていれば注意深く、その商標出願の動向を注視して、いつ商標公報が発行されたのかを確認をすることもできるでしょう。
また、大企業であれば、他社の商標出願の動向を調べている場合があるので、大企業も商標公報発行日を確認することができる場合が多いと思われます。
しかし、中小企業・個人事業主が、商標公報を見る機会もあまりないと思われるので、他者の商標公報発行日などわからない場合がほとんどであると思われます。
そのため、異議申立ては、中小企業・個人事業主様には使いにくい制度ともいえます。
ただ、こうした異議申立ての期限も、そもそも異議申立ての趣旨が特許庁の審査の誤りを是正するためのものであることや、いつまでも異議申立てをされるかもしれないというのでは商標権者にとって酷であるので、やむを得ないものと考えられています。
ここで、登録商標「チバニアン」に対する異議申立てについて話を戻します。
先程、「異議申立ては誰でも行うことができる」と述べました。これに間違いはありませんが、異議を申し立てるには、それなりの”理由”が必要となります。具体的には、その登録商標が、商標法のどの条文に違反して商標登録されたから異議を申し立てるということになります。
商標法では、異議申立理由を限定列挙しています。限定列挙なので、商標法で定められた事項しか異議申立ての理由にできません。
今回の「チバニアン」の異議申立てのケースでは、研究チーム側の気持ちもわかるのですが、異議申立てが認められて「チバニアン」の商標登録を取り消すための法律的な理由が無いようにも思われます。
研究チーム側が異議申立てにおいて、どのような主張をしているのか興味深いところです。
異議申立ての他に他人の商標登録をツブす手段は?
異議申立ては、商標登録されて商標公報が発行された日から2ケ月以内に誰でも行うことができる手続でした。
つまり、商標登録された後に行う手続です。
情報提供
他人の出願中の商標が商標登録されるのを阻止するための手続として「情報提供」という手続があります。
文字通り、特許庁に情報を提供して、出願されている商標には所定の商標登録の要件を満たしていないことを特許庁に知らせる手続になります。
情報提供は、商標登録がされる前に行う手続です。
情報提供には、「何か月以内」といった期限はありませんが、「商標登録出願中」にする必要があります。
最近は、特許庁の商標審査もだいぶ早くなってきて4~5ケ月程度(クライアント様からは「随分かかるね。」と言われますが。)で審査が完了することもあるので、それ程期間に余裕がある訳ではありません。
無効審判
無効審判は、商標登録を無効にするよう特許庁に求める手続です。
無効審判は誰でも行うことができる訳ではなく、「利害関係人」のみが行うことができるとされています。
また、商標法に限定列挙された無効理由のみを理由とすることになります。
基本的には、無効審判は、いつまでに請求しなければならないといった期限はありませんが、商標登録された日から5年が経過すると、主要な無効理由に基づく無効審判の請求はできなくなります。これを「除斥期間」とも呼びますが、5年という期間、その登録商標が平穏に存在してきたので、そのような法律状態を維持すべきと考えられるため、今さら無効審判は請求することができないとされるものです。ただし、一部の無効理由を根拠とする無効審判は請求できます。
取消審判
取消審判は、商標登録を取り消すよう特許庁に求める手続です。
取消審判には幾つかの種類がありますが、ここでは「不使用取消審判」のみ取り上げます。
不使用取消審判は、簡単に申しますと、3年以上登録商標が使用されていない場合、誰でもその商標登録を取り消すよう特許庁に求めることができるという審判手続です。
商標登録制度は、そもそも文字やマークといった商標自体を保護しようとするものではなく、商標に化体した商標使用者の信用・評判を保護するものです。長年使用されていない商標には、商標権者の信用が化体することはないので保護するに値しませんし、また、そのような不使用の登録商標がたくさん存在したのでは、その他の人の商標の選択の幅が小さくなりネーミング等の制約が大きくなってしまうため、不使用取消審判制度が存在します。