商標ってなんだ?!

これまで、商標や商標登録について数々の記事を書いてきました。
その中には、商標の意味や商標登録のメリットなどの基本的な記事もありました。
しかし、それらの記事では、「商標的使用」であったり、「商標の機能」などといった、専門的でわかりにくい表現・用語を使っていることがありましたので、本稿では、こうした表現・言葉を使うことなく、商標と商標登録のことをとてもわかりやすくご説明していこうと思います。

商標とは?

まずは、「商標」とは何か、ということです。

ビジネスをするうえでの”目印”という感じでしょうか。

商標のことを英語で言うと、「トレードマーク」になります。
「商標」=「トレードマーク」と考えた方がわかりやすいかもしれません。

例えば、私自身のことでアレなんですが、数年前からあごヒゲを生やしています。
なので、”あごヒゲの弁理士といえばミヤシタだね”、”あごヒゲはミヤシタのトレードマークだね”という具合です。

もう少し、まともな例を挙げます。

パソコンやスマホに「リンゴ」のマークがあれば、皆さん、それはアップル社の商品であるとわかりますよね。
まさにそれでして、「リンゴ」のマークは、アップル社の「トレードマーク」、つまり、「商標」なのです。

商標は、アップル社の「リンゴ」のマークのように図形的なマークだけではなく、「SONY」のような文字も商標になります。

また、アップル社の「リンゴ」のマークや「SONY」のように、会社のことを示すものに限らず、「XPERIA」のように、会社というよりは商品のことを示す商標もあります。

有名な企業の商標の例をいくつか挙げましたが、商標は、もちろん、大企業のものだけではありません。

なぜ商標が必要?

それでは、なぜ商標が必要なのでしょうか?

例えば、スーパーにビールを買いに行くとします。
そのスーパーのビール売り場には、何種類かのビールが陳列されているのですが、ビールの缶やプライスカードには、「ビール」とか「BEER」としか書かれていなかったとします。
そうすると、数あるビールの中から、自分のお気に入りのビールを捜して買うことができません。
ビール好きの人の中には、「絶対、キリン」という人もいるでしょうし、「いやいや、サッポロ」という人もいるでしょう。あるいは、「スーパードライでなきゃ」という人もいるはずです。
こうした人達は、過去に飲んだビールの味を覚えていたり、テレビコマーシャルのイメージが良かったなどの理由で、それぞれ好みの会社や銘柄のビールを選ぶのですが、その時に、”目印”になるのが、そうです、「商標」なのです。
つまり、商標は、お客さんが商品やサービスを選ぶときの”目印”になるのです。
どんなに美味しいビールを作ってお客さんに飲んでもらって気に入ってもらっても、商標がなければ、お客さんはリピートして買うことができないし、口コミすることもできないのです。

上の例は、ビールを買うお客さんから見た話です。
これを企業側から見るとどうでしょう?

商標が自社の商品がお客さんから選ばれる時の目印になるのですから、企業側からすると、お客さんに自社の商品はもちろん、商標も気に入ってもらいたい訳です。
「ビール通は、「サッポロ」だね」とか、「やっぱり「スーパードライ」だよ」という感じですね。
だから、企業としては、お客さんに気に入ってもらった商標のイメージを悪くしないように、常に美味しいビールを提供できるように品質に配慮するなどの企業努力を続けるのです。

「ブランド」って言葉もあるけど?

「ブランド」、「ブランド力」、「ブランディング」のような言葉を聞くことがありますね。

「ブランド」とは、どういう意味なのか?

結構、使う人によって「ブランド」の意味が違っているようにも思えます。
そういう意味では、あいまいな言葉なのかもしれません。

国語辞典や英和辞典で調べると、「ブランド(BRAND)」は、「商標」や「銘柄」と書いてあります。

ここで、「ブランド力」という言葉について考えてみます。

「ブランド」=「商標」だとすると、「ブランド力」=「商標の力」とでもなるのでしょうか。

上の「なぜ商標が必要?」のところで、「お客さんに商標を気に入ってもらう」という趣旨のことを述べましたが、多くのお客さんに強く気に入られている商標は”力が強い”といえると思います。
言い換えれば、多くのお客さんに強く気に入られている商標は、「ブランド力」が強いともいえるのでしょう。

つまり、「ブランド力」とは、商標がどの程度お客さんに気に入られているか、あるいは、その商標にどの程度ファンがいるか、ということを意味して使われていることが多いと思います。

同じような種類の商品がたくさんあったとして、その中から、多くのお客さんに選ばれるのはブランド力の強い商標が付いている商品になります。なにせ、その商標にはファンが多いのですから。

このように、ブランド力の強い商標が付いている商品は、数あるライバル企業の商品よりも、お客さんに買ってもらいやすくなるので、その商標は、商売上とても有利な”武器”になる訳です。
また、多くのお客さんに選ばれる商品なので、ライバル企業の商品よりも価格を高くしても売れるかもしれないので、単価を上げることもできるかもしれません。

ブランド力の強い商標は、いいことづくめなのです。

なぜ商標登録が必要?

2つ上の項目「なぜ商標が必要?」と似ているので、ややこしいのですが、「なぜ商標登録が必要?」と「なぜ商標が必要?」は、ハッキリと意味が違います。

繰り返しになりますが、「なぜ商標が必要?」では、商標が商品・サービスを選ぶときの”目印”になるから必要だ、というようなことを述べまして、「商標」そのものがなぜ必要なのかをご説明致しました。

「なぜ商標登録が必要?」では、「商標」そのものではなくて、「商標登録」というものがなぜ必要なのかをご説明致します。

まずは、「商標登録」って何?ってことですよね。

「商標登録」というのは、商標を特許庁というところに登録することです。
どういうふうに特許庁に商標を登録するのかは、大抵、弁理士が行いますし、登録の手続もややこしく面倒なので、ここではお伝えしません。

「商標登録」が、商標と特許庁に登録することだとして、なぜ商標登録をするのか?
いや、商標登録したら、どうなるのか?ということを次にご説明します。

非常にざっくり言うと、商標登録をしたら、その商標はアナタだけが使えるようになります。
別の言い方をすれば、その商標をアナタ以外の人や会社が使うことができなくなります。

ただし、これはあくまで”ざっくり”の説明です。

もう少し細かく、雰囲気が伝わるような例を挙げます。
例えば、アナタがレストランの店主だとして、アナタのレストランの名前を商標登録したとします。
仮に、そのレストランの名前が「ラブラドール」だとすると、他の人や会社は、「ラブラドール」という名前をレストラン、カフェ、居酒屋などの飲食店の名前として使うことができなくなります。
しかし、アナタの商標は、レストランの名前の商標なので、例えば、他の会社が、レストランとは全く業界が違う、スマホの名前として「ラブラドール」という名称を使うことはできるのです。

以上が商標登録という制度の仕組みというか、商標登録の効果の説明になります。

続いて、では、このような商標登録の仕組みがなぜ必要なのかをご説明します。

上の「なぜ商標が必要?」と「「ブランド」って言葉もあるけど?」のところで述べましたが、商標は、商品やサービスの”目印”であり、商標がお客さんに気に入ってもらえると、その商標が付いている商品・サービスはお客さんに買ってもらいやすくなったり、高い価格でも売ることができるようになります。

”商標がお客さんに気に入ってもられると、その商標が付いている商品・サービスはお客さんに買ってもらいやすくなる”というのが、ここでポイントになります。

その商標が付いている商品・サービスの売れ行きが良くなれば、その商標と同じような商標を使えば、自社の商品・サービスの売れ行きも良くなるんじゃないかと考えるライバル企業が出てくることがあるのです。悪く言うと、”パクリ”とか”バッタもの”と呼ばれるものですね。

このように、”パクリ”とか”バッタもの”が出てくると、いわゆる、”本家”の企業はたまりません。
せっかく良い商品を開発して、品質の維持向上に努め、商標もお客さんに良いイメージを持ってもらうために、色々な企業努力を行ってきたのに、ライバル会社に、簡単に商標だけマネをされた商品を出され、シェアを奪われてはかないません。

”パクリ”商品・”バッタもの”の品質が悪かったらどうなるでしょう?

”パクリ”・”バッタもの”の商標は、本家の商標をマネしています。
そうすると、お客さんは、本家の商標と”パクリ”・”バッタもの”の商標と区別がつかない場合があります。
お客さんが、本家の商品と勘違いして”パクリ”・”バッタもの”商品を買ってしまったら...

そのお客さんは、本家の商品の品質が落ちたと勘違いをしてしまいます。
これは、なんとしても避けなければなりません。
せっかくお客さんに気に入られて、評判が良くなった商標が付いている商品の品質が落ちたと思われるので、その商標のイメージも悪くなってしまいます。

このようなことが起きないように、商標の評判を下げるような”パクリ”・”バッタもの”が出てこないように、商標をマネさせないようにするために、商標登録の仕組みがあるのです。

商標登録は、商標登録をした本人だけが、登録した商標を使えるようにする仕組みですからね。
だから、本家以外は、本家の商標と全く同じであったり、似たような商標を使えなくなるのです。

ちなみに、”本家以外が使えなくなる”というのは、もう少し、正確に言うと、もし本家以外が、本家の商標と同じような商標を使った場合、本家が”使うのを止めろ”とか”損害を賠償しろ”といえることが法律上認められているのです。

ここで、ちょっと話を戻しますが、”パクリ”・”バッタもの”を本家の商品と間違って買ってしまったお客さんはどうなるでしょう?
馴染みのある商標の付いた、いつもの商品を買って、いつもの品質を期待していたのに、それを裏切られてしまいます。
商標登録制度は、お客さんのこうした期待を裏切らせないためにも存在しているのです。

中小企業にとって商標登録の実際の問題は?

これまで、「アップル」、「SONY」、「キリン」、「サッポロ」、「スーパードライ」といった具体例を挙げてきました。
だからといって、商標登録は大企業だけのものではありませんし、中小企業に必要のないものでもありません。

確かに、これまでお伝えしてきたことは、商標が既にある程度お客さんに知られていて、気に入られている場合を前提にしています。
中小企業の商標は、それ程、知名度がないこともあろうかと思いますので、商標登録は中小企業にとっては無縁のものと思われがちです。

以下では、知名度がそれ程高くない中小企業の商標でも、なぜ商標登録が必要なのかをご説明致します。

まず、これまでお伝えしてきたのは、商標の”教科書”的なものに書かれている内容であったり、商標や商標登録のことを定めている商標法という法律の目的に沿って、専門用語やわかりにくい表現を避けてご説明してきたものです。
ですので、これまでの内容は、どちらかというと、商標や商標登録の”建前”的なものでした。

しかし、これからお伝えするのは、もっと実務的な内容になります。

、おさらいしますと、商標登録の制度は、商標を特許庁に登録すれば(つまり商標登録すれば)、その商標は、自分少しだけが独占して使うことができるようになるので、ライバル企業などにマネされた同じような商標を使われることがないようにするためのものでした。

ここで、(特許庁は置いてくとして)登場人物は、商標登録をした”本家”と、”本家”のマネをしようとするライバル企業だけでした。

しかし、実際には、”本家”とライバル関係にあるかどうかは問いませんが、特に、”本家”のマネをしようとはしていない企業もいるはずです。このような企業を以下、”第三の企業”とでも呼んでみます。

”第三の企業”は、別に”本家”の商標をマネしようとは思っていませんし、もしかすると、”本家”の商標を知りもしないかもしれません。
そんな”第三の企業”でも、たまたま偶然、”本家”が商標登録をした商標と同じような商標を使ってしまうことは十分に起こり得るのです。

この”第三の企業”は、繰り返しになりますが、決して”本家”の商標をマネた訳ではありません。

しかし、商標登録の仕組みというか、商標法は、このような”第三の企業”を許さないのです。
なので、この”第三の企業”は、”パクリ”・”バッタもの”商標を使った企業と大体同じように、商標登録をしている”本家”から、”その商標を使うな”とか”損害を賠償しろ”と言われてしまうのです。
もちろん、このような”本家”の主張は、法律で認められています。

本稿で、もっともお伝えしたいのは、アナタがこのような”第三の企業”にならないように注意をする必要があるということです。

つまり、マネをした訳でなく、悪気はなくて、たまたま、他の人や会社の商標登録した商標と同じような商標を使ってしまうと問題になるのです。

このような問題は、当然、大企業だけではなく、中小企業にも当てはまるのです。

そして、このような問題を避けるには、新しく商標を使い始める前に”商標調査”といって、同じような商標が既に他の人や会社に商標登録されていないかを調べるのが有効です。
大企業では、商標調査をすることが多いと思われますので、むしろ、あまり商標調査をしない中小企業の方が、より注意が必要ともいえるのです。

ちなみに、商標調査をどうやってやるのかは、ややこしく難しいので、ここではご説明を致しません。

実は、商標調査が有効といいましたが、これだけでは不十分なのです。

商標登録とは、”早い者勝ち”の制度です。
同じような商標を複数の事業者が商標登録しようとしたり、使っていることがあります。
このような場合、一番早くに特許庁に商標登録をするための手続をした事業者が勝つのです。

これは、こんなことを意味します。

例えば、アナタがある商標を商標登録しないで使っていたとします。
その商標を使い始める前に、しっかりと商標調査もして問題ないことを確認していました。
ところが、アナタがその商標を使い始めて3年後に、別の会社が、全く同じ商標を商標登録してしまうことがあります。
アナタが商標調査をした時点では、まだ、この別の会社は商標登録のための手続をしていないので、商標調査をしても調査結果に出てくるはずがないのです。
このようなケースでは、アナタが先に使い始めた商標でも、アナタはその商標を使うことができなくなったり、その別の会社に損害賠償をしなければならなくなるかもしれないのです。

つまり、商標調査をしても、その後、誰かに同じような商標を商標登録されてしまうことがあり、そうなると上の例のように他の人や会社に負けてしまいます。
これが、商標調査だけでは不十分な理由です。

では、どう対応するのか?

はい、上の例のようなことを避けたい場合は、アナタ自身がご自分の商標を商標登録すべきなのです。
商標調査をして、その後、なるべく早く、商標登録のための手続をするのです。

このようにすれば、商標調査をして問題ないことがわかった後に、誰かに商標登録されてしまう心配はありません。
商標登録は、“早い者勝ち”ですので。

商標登録は、もともと商標をマネされないようにするための仕組みといえますが、商標登録をすると、商標を独占できるので、逆に、他の人や会社に、アナタの商標を独占されてしまうリスクもあるので、商標登録は、アナタの商標をアナタ自身が安全使い続けるための仕組みでもあるのです。

 

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