地域団体商標の傾向と対策

地域ブランドを保護するために、2006年の4月から地域団体商標制度が施行されています。
2020年7月末の時点で、特許庁より、これまでの地域団体商標の都道府県別の出願件数と登録件数が発表されました。
この発表内容から、創設より約14年間の地域団体商標の傾向を見ることができますので、本稿では、その傾向と地域団体商標を商標登録するための留意点について考察致します。

地域団体商標とは?

地域団体商標は、一言でいえば、地域ブランドなのですが、商標の1つの種類でもあります。
地域ブランドでは、やや曖昧なので、具体例を挙げてみます。

地域団体商標とは、例えば、「東京牛乳」、「小田原かまぼこ」、「松阪牛」のように、地域の名称と、商品やサービスの普通名称を組み合わせた商標です。

こうした商標をわざわざ「地域団体商標」と呼ぶことには理由があります。

本来、地域の名称と商品・サービスの普通名称を組み合わせた商標は、商標登録できません。
このように、地域の名称と商品・サービスの普通名称を組み合わせただけの商標では、その商標から、ごの事業者の提供に係る商品・サービスであるのか区別がつかないためです。
商標は、商品・サービスが、どの事業者の提供に係るものであるかを区別するための標識の役目をするものなので、この役目を果たせない「地域名称+普通名称」という商標は、商標登録すべきでないと考えられているためです。
また、「地域名称+普通名称」という商標は、ある特定の事業者に商標登録を認めて、その事業者に独占させるべきではないとも考えられるからです。

それでもやっぱり、「地域名称+普通名称」という商標を商標登録してあげるべき場合もあるのです。

例えば、上で挙げた「小田原かまぼこ」を考えてみます。
「小田原かまぼこ」の小田原は、神奈川県になる小田原市のことで、地域名称です。
これに、商品の普通名称である「かまぼこ」を組み合わせた地域団体商標です。
「小田原かまぼこ」は、かまぼこという商品の中では、ある程度有名なのだと思います。
おそらく、小田原市やその周辺の地域に観光したら、お土産に「小田原かまぼこ」を買いたくなる方も多いのではないでしょうか。
しかし、これが単に「かまぼこ」という名称と売られていたり、かまぼこの産地としては知られていない名称が組み合わされた商品名であったとすると、あまり購買意欲が湧かないかもしれません。
つまり、「小田原かまぼこ」には、ブランド価値があるのです。
ブランド価値がある名称や商標には、ある問題がよく起こります。
小田原の地元の事業者が製造・販売するかまぼこに「小田原かまぼこ」という商標を使うのは、普通、問題がないと思います。
しかし、「小田原かまぼこ」には、ブランド価値があるので、それにあやかろうとする小田原とは無関係の”よそ者”が、かまぼこに「小田原かまぼこ」という名称・商標を使おうとすることが多々あるという問題があるのです。

上述のように、もともとは、「地域名称+普通名称」という商標は、基本的には、商標登録されなかったので、このような”よそ者”がいても、「小田原かまぼこ」の名称・商標を使わせないようにすることが困難だったので、地元の事業者は困っている状況がありました。
ましてや、”よそ者”のかまぼこの品質が悪いと「小田原かまぼこ」のブランド価値も下がってしまいます。

このような”よそ者”問題があると地域ブランドの価値が下がったり、新しくできてこないので、「地域名称+普通名称」という商標も一定の要件のもと、商標登録を認めるべきだと考えられて地域団体商標制度ができたのです。

そうは言っても基本的には商標登録が認められない「地域名称+普通名称」について商標登録を認めるので、普通の商標よりも、商標登録されるための要件をやや厳しくしたのが地域団体商標なのです。

地域団体商標のやや厳しい商標登録の要件は、簡単(細かい要件はややはしょります)に言うと、次の点です。

・地域団体商標の商標登録は、農協などの組合、商工会議所、NPO法人などに限って商標登録が認められます。
つまり、個人や会社が地域団体商標の商標登録を受けることはできません。

・地域団体商標は、ある程度有名になっていないと商標登録されません。
つまり、地域団体商標について商標登録を受けるためには、その地域団体商標がある程度有名になっていることを示す資料を特許庁に提出しなければなりません。

以上のように、地域団体商標は、地域団体商標制度の由来や登録要件の特殊性から、通常の商標とは、区別するために「地域団体商標」と呼ばれているのです。

2006年から2020年までの地域団体商標の出願と登録状況

特許庁が発表した資料より、2006年4月から2020年7月までの地域団体商標の出願件数と登録件数を見てみます。

まず、全体の件数です。
地域団体商標の商標出願件数は、全部で1,272件です。
地域団体商標の商標登録件数は、全部で687件です。

ちなみに、この件数の中には、海外からの出願と登録も含まれており、海外からの出願は9件、登録は3件となっています。

この統計資料は、都道府県別になっています。

都道府県別に見ると、地域団体商標の商標出願件数が最も多いのは、京都府です。
圧倒的に多く、153件の地域団体商標の商標出願がなされています。100件を超えているのは京都府だけです。
地域団体商標の商標出願件数の第2位が兵庫県の69件ですので、京都府の出願件数がいかに多いかおわかり頂けるかと思います。

地域団体商標の商標出願件数の第3位が北海道の59件、第4位が沖縄県の46件です。
北海道は良好な農産物や海産物が採れそうですし、沖縄県は独特の特産品が多いと思いますので、それらの地域団体商標が多いのかもしれません。
北海道、沖縄県に共通しているのは、どちらも人気の観光地ですね。観光客にお土産をアピールするためにも地域ブランドは重要なのでしょう。

なお、地域団体商標の商標出願件数が最も少ないのは、鳥取県で6件です。

実は、鳥取県、出願件数が最も少ないということの他に、もう一つ大きな特徴があります。
それは、地域団体商標の登録件数も6件だということです。
当たり前の数字のようにも見えますが、実は違います。
6件の商標を出願して、6件とも商標登録されています。つまり、100発100中ですね。

上述しましたが、地域団体商標出願件数の総数は1,272件で、登録件数が687件です。
地域団体商標の出願をして、約半分は商標登録されていますが、残りの約半分は商標登録できていません(実際には、現在出願中のものありますので、商標登録できたかできていないか結論が出ていないものもあります)。

全体では、商標登録率が約50%の地域団体商標の中で鳥取県の出願6件中、登録が6件というのは特筆すべきものと思います。

地域団体商標を商標登録するためのカギは?

上で述べましたように、地域団体商標の商標出願をして商標登録されるのは約半分、つまり、地域団体商標の商標登録率は約50%です。

ちなみに、特許庁の「特許行政年次報告書2020年版」を見ると、地域団体商標を含め、通常の商標やその他の特殊な商標を含めた全体の商標登録率は、近年、80%を超えていることが把握できます。

ですので、地域団体商標の商標登録率は、全体と比べると顕著に低いことがわかります。
これは、上述した地域団体商標特有の商標登録の要件が関係していると思われます。

地域団体商標特有の商標登録要件とは以下のものです。

(1)地域団体商標の商標登録は、農協などの組合、商工会議所、NPO法人などに限って商標登録が認められます。
(2)地域団体商標は、ある程度有名になっていないと商標登録されません。

(1)の要件(個人や会社は商標登録することができず、組合や商工会議所、NPO法人のみが商標登録できる))は、地域団体商標の商標出願をする前に、普通に考えて確認すると思いますので、これが地域団体商標の商標登録率を下げる要因とは考えにくいです。

おそらく、地域団体商標の商標登録率が低いのは、(2)の要件、すなわち、ある程度有名になっていなければならいという要件をクリアできないために、商標登録できなかった地域団体商標の商標出願が多いのではないかと考えられます。

”ある程度有名になっていなければならない”ということは、ある程度、その地域団体商標が有名になっていることを示す資料を特許庁に提出する必要があるのですが、適切かつ十分な資料の提出ができなかったのではないでしょうか。

したがって、地域団体商標を高い確率で商標登録するためには、ある程度有名になっていることを示す次のような資料を用意しておく必要があります。

・地域団体商標の対象の商品・サービス(指定商品・指定役務)の発売時期、生産数量・販売数量・売上高等を示す伝票、書類、第三者の証明書等

・地域団体商標の対象の商品・サービス(指定商品・指定役務)の宣伝広告が掲載されたパンフレット、観光案内、ウェブサイトの写し等

・地域団体商標の対象の商品・サービス(指定商品・指定役務)の宣伝広告の量や回数を示す広告代理店との取引書類等

・地域団体商標の対象の商品・サービス(指定商品・指定役務)が紹介された新聞、雑誌等の記事

・国や地方公共団体から、地域団体商標の対象の商品・サービス(指定商品・指定役務)が優良商品として認定・表彰されたことを示す資料

 

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