「ビジネスモデル(?)特許」の最近の動向(2020年7月)

2020年7月27日に、特許庁のホームページにて「ビジネス関連発明の最近の動向について」という記事が公表されました。
その内容は、中々興味深いものでしたので、本稿にて、ご紹介させて頂こうと思います。

「ビジネス関連発明」とは?

そもそも、まずは、「ビジネス関連発明」とは何か?ということからご説明致します。
ちなみに、よく「ビジネスモデル特許」という言葉を聞くことがありますが、厳密には、これはあまり正確な表現ではないので、おそらく特許庁では「ビジネスモデル特許」とは言わずに、「ビジネス関連発明」と称しているのではないかと思います。

今回の特許庁の記事では、ビジネス関連発明を、概ね、「ビジネス方法がICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用して実現された発明」と説明しています。

補足しますと、特許の対象となる発明は、特許法では、次のように規定されています。

「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)。

念のため、この条文について、ご説明します。
まず、「技術的思想」とは、普段聞き慣れない言葉であると思いますが、「技術的なアイデア」と置き換えればわかりやすいのではないかと思います。
また、「高度」とは、特許とやや似ている「実用新案」という制度があるのですが、実用新案の対象となる「考案」よりも、特許の対象になる「発明」の方が「高度」のものであるという趣旨です。
以上を踏まえて、特許法が定める特許の対象となる発明は、「実用新案よりも高度で、初めて作り出された、自然法則を使った技術的なアイデア」位に考えればよいと思います。

ここで、ビジネス関連発明でよく問題になるのは、「自然法則を利用した」の部分です。

今回の特許庁の発表でも、「販売管理や生産管理に関する画期的なアイデアそのものは、特許の保護対象にならない」と説明しています。

販売管理や生産管理等のビジネス関連のアイデア自体は、一般的には人間が考え出したもので、「自然法則を利用」していないため、特許の対象外という訳です。

この点は、よく相談や質問(例えば、「このビジネスのスキームで特許を取れないか?」等)を受けることが多いのですが、ビジネス関連発明について、最も誤解が多い部分であると思います。
つまり、「ビジネスモデル」のアイデアそのものは、特許の対象外なので、上述しましたように、「ビジネスモデル特許」という言葉は、やや不正確と考えられるのです。

こうしたビジネスモデルやスキームも、上述の特許庁の説明のように、例えば、「ICT(情報通信技術)」を利用して実現されるものであれば、特許の対象になってきます(ただし、これは、あくまで特許の対象となり得る土俵に上がったという意味で、その他の特許を取得するための要件をクリアする必要があります。)。

最近注目のビジネス関連発明の具体例

近年の話題の技術といえば、「IoT」や「AI」ですが、こうした技術を使ったビジネス関連発明も当然のことながら、出てきているようです。

今回の特許庁の発表では、次のようIoTのビジネス関連発明の例を紹介しています。

(1)様々なセンサ等のデータを取得する
(2)取得したデータを通信する
(3)通信したデータをビッグデータ化する
(4)ビッグデータをAIを利用して分析
(5)AIが分析して得られたデータを、商品・サービスの提供にあたり利用する
(6)上記(1)~(5)の全体をビジネスモデルとして確立する

上のような例では、(5)又は(6)の段階で特許を取得できるかもしれません。

近年のビジネス関連発明の特許出願動向

ビジネス関連発明についての特許出願の件数は、非常に特徴的でおもしろいです。

まず、2000年頃にビジネスモデル特許が非常に話題となりました。
その影響から、2000年は、ビジネス関連発明についての特許出願が19,653件もありました。

しかし、そこから、しばらく右肩下がりでビジネス関連発明についての特許出願件数が減っていき、2011年には5,530件にまで減りました。
2000年、2001年頃の大量のビジネス関連発明の特許出願は、一種のブームといえるものでしょう。しかし、当時のビジネス関連発明の特許出願は、中々、特許庁の審査に通らず(換言すると、特許査定率が低い)、特許にならなかったものが多かったといえます。
ですので、単純に、ビジネス関連発明の特許出願ブームが去り、しかも、特許出願してもほとんど特許にならないということもあったので、上述のようにビジネス関連発明の特許出願件数は急激に減っていったのです。

しかし、2012年からは、ビジネス関連発明の特許出願件数は増加に転じ、2018年では、9,921件まで増えてきています。
今回の発表で特許庁は、その理由について、(1)「モノ」から「コト」への産業構造変化に応じてソリューションビジネスについての研究開発が進んだこと、(2)スマートフォンやSNSの普及とIoTやAI技術の進展により、ICTを使った新しいサービスを提供するビジネス分野が拡大したことを挙げています。
また、当初、低かった特許査定率も次第に上昇してきており、最近では、他の技術分野と同程度の特許査定率となっていることもビジネス関連発明の特許出願件数が再び増加傾向にある要因と考えられます。

近年、特に、2015年~2018年のビジネス関連発明の特許出願の技術分野や業種といった内容で見ると、(1)EC・マーケティング、(2)管理・経営、(3)サービス業一般が上位を占めています。

EC・マーケティングには、電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等が含まれますが、これらについての特許出願件数が増えているのは、フリマアプリやネットオークション等の電子商取引の拡大や、これらに伴うマーケティングや広告ビジネスが活発になっていることが要因のようです。

管理・経営には、社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等が含まれますが、これらについてはAIを活用した発明が多く、2015年以降、急速に特許出願件数が増加している技術分野となっています。

サービス業一般には、宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等が含まれます。これらの業種においてビジネス関連発明の特許出願が増えているのは、例えば、カーシェアリングや民泊等といった最近の流行のビジネスやスマートフォン・オンラインで提供されるサービスが増えてきていることが要因です。

上述の3分野の他で特筆すべきは、フィンテックを含む金融と、ヘルスケアの分野のビジネス関連発明の特許出願件数が増えている点です。

まとめ

2000年頃に大ブームが起きた「ビジネスモデル特許」ですが、その後すぐに特許出願件数が減少しました。
しかし、近年、情報通信技術の普及・発達により、様々な業種で多様なサービスが多く創出されてきており、再び、ビジネス関連発明についての特許出願が増加してきています。

上でも若干触れましたが、例えば、飲食業のように、特許とはあまり縁のないとも思える業種においてもビジネス関連発明の特許出願が増えてきているようです。

したがって、ライバル企業にはない、新しい有用なビジネスを思い付いた場合、ライバル企業にまねされないようにするために、ビジネス方法のアイデア自体がそもそも特許の対象にはならないことに留意しつつ、ビジネス関連発明について特許を取得することを検討してもよいかもしれませんね。

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