本稿では、「特許行政年次報告書2020年版」から、近年の商標登録の状況について、みてみようと思います。
「特許行政年次報告書」は、毎年、特許庁が取りまとめるもので、「知的財産制度に関心を持ち理解を深めていただくために、知的財産をめぐる国内外の動向と特許庁における取組について取りまとめたもの」と位置付けられております。
商標登録出願の件数
2019年の商標登録出願件数は、190,773件でした。2017年が190,939件、2018年が184,483件でしたので、過去3年間は、年間18万件、19万件くらいの商標登録出願件数で推移しています。
もっとも、2010年から2014年までは、年間11万件から12万件程度で推移していましたので、当時と比べると、商標登録出願件数が相当増えていることがわかります。
ちなみに、2015年の商標登録出願件数が147,283件、2016年が161,859件でしたので、2015年から2017年にかけて段階的に商標登録出願件数が増えてきています。
2019年の商標登録出願件数190,773件のうち、94,532件は中小企業によるものでしたので、全体の約半分が中小企業による商標登録出願であったことになります。
中小企業の商標登録出願件数の推移も上述の全体の推移と同じような傾向にあり、2015年が64,241件、2016年が78,907件と段階的に増加して、2017年、2018年、2019年の各年は約9万件で推移しています。
特許庁における商標審査期間
2019年においては、商標登録出願から、特許庁の一次的な審査結果の通知が来るまでの期間は、9.9か月でした。
2015年に弊所より商標登録出願した案件では、概ね、特許庁の一次的な審査結果が来るまでの期間は約5か月でしたので、近年、特許庁の商標審査にかかる期間は長くなってきていることがわかります。
上述の商標登録出願の件数で見ましたように、近年、商標登録出願件数が増えてきていますので、このことが特許庁の商標審査が長期化している要因と考えられますし、特許庁もそのように説明をしています。
上述の2019年の審査期間9.9か月について、若干、補足します。
特許庁における商標審査では、所定の要件を満たして別途申請をした場合に適用される「早期審査」や、商標登録出願の願書に記載する指定商品・指定役務が所定の要件を満たしている場合に適用される「ファストトラック審査」というものがあります。これらは、審査期間が、例えば、2か月とか6か月等、早くなる審査制度です。
上述の審査期間9.9か月は、2019年の商標登録出願の平均値でしょうから、「早期審査」や「ファストトラック審査」案件も含まれている数値と思われますので、「早期審査」でも「ファストトラック審査」でもない、”通常”の審査の場合の審査期間は、もっと長くなっています。弊所の案件で見ますと、ざっくり、12か月程度かかっているように思います。
商標登録出願件数上位の会社は?
2019年に最も多くの商標登録出願を行ったのは、どの会社でしょうか?
第1位は、株式会社サンリオで470件でした。第2位は、花王株式会社で469件、第3位は、株式会社資生堂で385件でした。
ちなみに、2018年は、第1位が株式会社資生堂、第2位が株式会社サンリオ、第3位が花王株式会社でしたので、2018年と2019年では、上位3社の順位が入れ替わっただけとなっています。
2019年の第4位の商標登録出願件数が271件でしたので、やはり、上述の3社が”3強”といえます。
2019年の商標登録出願件数上位のその他のメジャーな企業を挙げると、パナソニック株式会社が第6位、株式会社コーセーが第8位、三菱電機株式会社が第9位、江崎グリコ株式会社が第10位となっています。
特許庁の商標に関する取り組み
「特許行政年次報告書2020年版」では、特許庁における商標に関する取組についても記載されています。
これらの記載は、やや専門的な内容であるため、取組の項目のみご紹介し、若干の感想を述べます。
1.商標の早期権利化ニーズに応えるための取組
2.商標審査基準及び審査便覧の改訂
3.商品・役務の分類に関する取組
4.マドリッド協定議定書に基づく商標の国際登録制度に関する取組
5.地域団体商標に関する取組
上述しましたように、近年の商標登録出願件数の増加、及びそれに伴う特許庁の商標審査期間の長期化という問題がありますので、特許庁の商標に関する取組の中で、「商標の早期権利化ニーズに応えるための取組」が最初の項目として取り上げられています。
2015年では、特許庁の商標審査期間が約5か月であったと上で述べましたが、4か月という案件もありました。
もっとも、2015年より前の商標審査期間も4~5か月であった訳ではありません。1年ほどかかっていた時期もありましたし、さらにその前は1年以上かかっていることもありました。
このように長時間かかる特許庁の商標審査には批判もあり、特許庁の商標審査の効率化・合理化の努力により、年々審査期間が短くなり、私の知る限りでは2015年頃の4か月というのが、通常の審査では最速のピークで、次第に6か月、8か月、10か月、12か月というように審査期間が長くなってきています。
このような状況において、「特許行政年次報告書2020年版」では、特許庁の「商標の早期権利化ニーズに応えるための取組」として、(1)審査体制の強化・効率化、(2)ファストトラック審査、及び(3)商標早期審査の実施を挙げています。
一度早くなった審査が、従前のように時間がかかるようになっている現状は、決して望ましいとはいえないので、是非とも再び、通常の審査でも4~5か月程度の審査期間となるよう、上記の施策に期待するところです。