商標審査の「ファストトラック審査」について

2018年9月21日、特許庁より、特許庁の商標審査に関して「ファストトラック審査」という新しい仕組みを実験的に導入することが発表されました。

「ファストトラック審査」とは、簡単に言いますと、特許庁における商標審査の時間を通常の商標審査の時間よりも少し早める審査と言えます。

本稿では、ファストトラック審査の概要と注意点をご説明致します。

ファストトラック審査導入の背景

ここ数年、日本の特許庁への商標出願は増えている傾向にあります。

こうした商標出願件数の増加の影響と思われますが、最近の特許庁の商標審査スピードは落ちていると感じます。
上述の特許庁の発表にもありましたが、現状、特許庁の商標の審査期間はというと、商標を出願してから約8ケ月後に、特許庁の最初の審査結果の通知が来ています。
特許庁の商標審査スピードがもっと速かった時期は、商標出願から最初の審査結果の通知まで約4ケ月間でしたので、最近はだいぶ審査に時間がかかっているといえます。

今後、ますます商標出願件数が増える可能性もありますし、特許庁としても正確な審査はもちろん迅速な審査の要請もありますので、早く審査結果を出せる案件についてはなるべく早くしようという考えなのだと思います。

そこで、このファストトラック審査ですが、ファストトラック審査の対象となった商標出願は約6ケ月で最初の審査結果が出るそうです。

ファストトラック審査の対象になる商標出願

全ての商標出願がファストトラック審査の対象になる訳ではありません。
対象になるのは、次の2つ要件をいずれも満たしている商標出願になります。

(1)出願時に、「類似商品・役務審査基準」、「商標法施行規則」又は「商品・サービス国際分類表(ニース分類)」に掲載の商品・役務(以下、「基準等表示」)のみを指定している商標登録出願

(2)審査着手時までに指定商品・指定役務の補正を行っていない商標登録出願

上2つの要件は、特許庁の発表のものをそのまま引用しましたので、少し補足します。

(1)の要件については、指定商品・指定役務の記載に関し、特許庁等が定めている商品名・役務名をそのまま採用した商標出願ということになります。

(2)の要件については、指定商品・指定役務の記載を特許庁が審査を開始するまでに修正していない商標出願となります。

また、この他、特殊な種類の商標出願については、ファストトラック審査の対象にならないことになっています。

ファストトラック審査は、2018年10月1日以降に商標出願された案件が対象になります。

ファストトラック審査の概要

ファストトラック審査とは、上記の2つの要件を両方とも満たした、通常の商標出願で、2018年10月1日以降に出願されたものについて、これまでの商標審査よりも約2ケ月ほど早い6ケ月間で最初の審査結果の通知をするというものです。

なお、ファストトラック審査の要件を満たしている商標出願に関しては、何ら特別の手続や申請をすることなく、ファストトラック審査が適用されます。

ファストトラック審査の注意点

特許庁の商標審査は遅いよりも早いに越したことはありません。
ですので、ファストトラック審査はユーザーフレンドリーな仕組みと言えます。
しかし、ファストトラック審査に関連して少し注意も必要と思われますので、以下に注意点を挙げてみます。

無理をしてファストトラック審査の適用を受ける必要はない?

上述しましたように、ファストトラック審査の効果は普通の商標出願よりも特許庁の審査が2ケ月ほど短くなるということです。
つまり、ファストトラック審査でも審査期間として6ケ月かかります。

本当に早い商標登録が必要な場合は、別の仕組みである「早期審査制度」を利用すべきです。
早期審査の場合は、商標出願から2ケ月ほどで最初の審査結果の通知が来ます。
(早期審査の場合は、ファストトラック審査よりも要件のハードルは高く、また、別途そのための申請書類が必要になります。)

また、ファストトラック審査の適用を受けるとなると、指定商品・指定役務の記載を特許庁等が定めている商品名・役務名に合わせなければなりません。
指定商品・指定役務として記載しようとしている商品名・役務名がちょうど特許庁等が定めている商品名・役務名と同じであれば問題ありませんが、ファストトラック審査の適用を受けようとするために無理をして商品名・役務名を特許庁等のそれに合わせるのは得策ではありません。

例えば、特殊な商品・サービスを取り扱っている場合や今までになかったような新しい商品・サービスの場合、特許庁等が定める商品名・役務名には挙げられていない可能性が大きいですが、このような場合に指定商品・指定役務の記載を特許庁等が定めている商品名役務名に合わせてしまうと、適切な商標登録ができなくなる可能性があります。

ファストトラック審査の適用を受けるための手続・料金

ファストトラック審査の要件が整っている商標出願については、自動的にファストトラック審査の対象になります。

そのため、ファストトラック審査の適用を受けるために特別な手続は必要ありません。

また、ファストトラック審査を受けるための特別に特許庁に支払う費用もありません。

ですので、商標出願を弁理士に頼む場合でも、ファストトラック審査の対象になるからといって割増料金が発生することはありません(弁理士が別途割増料金を請求することはないと信じたいものです)。

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