これを読めば商標の全てがわかる?!
インターネットなどには、商標登録に関する情報がたくさんありますが、情報量が多すぎて・・・なんてことはありませんか?
そこで、この記事1つで商標の基本の全体像をお伝えします。
この記事では、”商標の全てがわかる”といっても、講学上必要があっても、ビジネスの現場ではあまり必要と考えられない情報は書かないか、最小限度に留めます。
つまり、企業の経営者や総務・法務のご担当の方といったビジネスパーソンにとって実践的な内容に絞ってお伝えします。
商標とは?
商標とは、商(あきない)の標(しるし)です。
英語で言うと、”トレードマーク”です。
具体的に、どのようなものが商標になるかというと、典型的には、会社の名前、商品・サービスの名前、店舗の名前、ロゴマーク等です。
前述の”あきないのしるし”とか”トレードマーク”というのは、”そのネーミングやマークを見れば、それがどの会社の商品・サービスかわかる”というものです。具体例を挙げると、缶入り飲料の缶に「コーラ」としか書かれていなければ、そのコーラはどの会社の商品かわかりません。しかし、そこに「コカ・コーラ」や「ペプシ」等と書かれていれば、どの会社のコーラか区別できます。つまり、「コカ・コーラ」や「ペプシ」が商標として働いていることになります。
そのような訳で、商標は、商品やサービスの「出所識別標識」とも呼ばれます。つまり、商品・サービスの出所(でどころ)を識別するための標識ということです。
商標の重要性
商標は商品・サービスの出所識別標識であり、商品・サービスの出所を識別する機能(働き)があります。ちなみに、出所識別機能は、やや小難しい言葉ですが、商標の最も重要な働きで、後程また登場するので、何となく覚えておいて頂けるとよいと思います。
この商標の出所識別機能から、さらに、商標は次のような働きをします。
・出所表示機能・・・出所識別機能と似ていますが、出所識別機能といえば商品・サービスの出所を区別する働きですが、出所表示機能は出所を表す働きです。
出所識別機能はA社の商品とB社の商品を区別できれば足りますが、出所表示機能は具体的にA社の商品であることを示す働きとお考え下さい。
・品質保証機能・・・同じ商標が付された商品・サービスは、どれも均質の商品・サービスであることを、商品・サービスの提供者側からすると保証し、商品・サービスの購入者側からすると期待させる働きです。わかりやすい例でご説明すると、「マクドナルド」の「M」のマークのお店に行けば、マクドナルドのあのいつもの品質のハンバーガーやフライドポテトを購入できる、という具合です。
・広告宣伝機能・・・過去の購入体験やテレビコマーシャル等を見て、ある商標に好印象を持つことがあります。このように、商標に対して、好印象を持たれると、商標が広告塔の役目を果たすことがあります。これもわかりやすい例でご説明すると、アップル社の「リンゴ」のマークです。あの「リンゴ」のマークの付いたパソコンやスマートフォンはデザインが洗練されていて購買意欲が湧きますし、また、「リンゴ」のマークのそういった機器を持つことで一種のステイタスを感じる方もいるのではないでしょうか。
以上が「商標の機能」のご説明です。
上で挙げた例はいずれも大企業の商標ばかりですし、各種商標の機能といっても中小企業や個人事業主の方にとっては、ややピンとこない話かもしれません。
しかし、次の点は、中小企業・個人事業主の方にも覚えておいて頂きたいものです。
ご説明した各種商標の機能は、集約すると、「商標には、その商標使用者の信用が蓄積される」という点です。
例えば、上述した品質保証機能にしても広告宣伝機能にしても、その商標のもとに、その商標使用者が企業努力を継続して、一定の品質の商品・サービスを維持しつつ顧客にもその品質を浸透させ、また、その商標使用者の企業努力により商標使用者が顧客のお気に入りとなり、商標使用者を表す商標が顧客から支持されるのです。
もし、他人がアナタの商標と同じような商標を使って、劣悪な商品・サービスを提供し始めたらどうなるでしょう?
同じような商標を使われているので、お客さんからは、その商品・サービスがアナタのものか他人のものか区別がつきませんので、アナタの会社の信用・評判が落ちてしまうかもしれないのです。
つまり、商標を保護するということは、その事業者の信用を守ることを意味するのです。
そして、”商標を保護する”のが、次にご説明する「商標登録」です。
商標登録による商標の保護
商標登録とは、商標を特許庁に登録することです。
商標登録をすることによって「商標権」が発生し、少しざっくりとしたご説明になりますが、その商標権に基づいて商標登録した商標(登録商標)を独占的に使用することができるようになります。
独占使用することができるということは、他人はそれと同じような商標を使えなくなるので、上述したように他人に同じような商標を使われてしまって、信用・評判を落とすということを防ぐことができます。
商標登録をするには?
では、商標を保護する商標登録は、どのようにするか、という点をご説明します。
一言で言えば、特許庁に対して、「商標登録出願」という手続を行います。「商標登録願」という願書を特許庁に提出する手続です。
商標登録願には、商標登録出願をする商標登録出願人の名称や住所を記載するとともに、商標登録をしたい商標を記載します。
さらに、商標登録願には「指定商品・指定役務」という記載項目があります。指定商品・指定役務とは、商標登録をしたい商標を使ってどのようなビジネスを行うのか、具体的には、その商標を使って提供する商品・サービスとお考え頂ければと思います。ちなみに、役務とはサービスのことです。
先程、”商標登録した商標を独占的に使用することができる”と述べましたが、もう少し正確には、”指定商品・指定役務について、商標登録した商標を独占的に使用することができる”となります。
ですので、指定商品・指定役務は、登録商標の範囲(というか、その商標権の範囲)を決める1つの要素となりますので、指定商品・指定役務は非常に重要で、その書き方には細心の注意が必要となります。
どのような商標が商標登録されるのか?
上述しましたように、商標登録をするためには、特許庁に願書を提出します。
願書を特許庁に提出すると、特許庁が商標登録出願された内容を審査します。商標登録の要件にかなったものであるかを審査する訳です。つまり、何でもかんでも商標登録される訳ではありません。
ここでは、特許庁の商標審査で問題になることが多い2つの商標登録の要件をご説明します。
・出願した商標が、指定商品・指定役務についての一般的な名称ではないこと。
”一般的な名称”とは、例えば、指定商品・指定役務の普通名称であったり、単なる品質を表す言葉等ですので、そのような名称・言葉は商標登録の要件を満たさず、基本的には商標登録できません。
商標が一般的な名称ですと、どの事業者が提供する商品・サービスであるのか区別できません。つまり、上述した商標の最も重要な機能である出所識別機能を発揮できませんので商標登録すべきではないと考えられています。
また、そのような一般的な名称は、同じ業界の事業者は誰しも使う必要性があるので、特定の事業者に独占使用させる訳にもいかないと考えられているためです。
・先に商標出願された他人の登録商標と同一又は類似ではないこと
当然のことといえば当然の要件です。つまり、他人の登録商標と同じような商標は商標登録できません。
商標登録をすると、その商標を独占使用できると述べましたが、同じような商標を他人が重ねて商標登録できるのであれば、商標登録をしても独占使用できません。
ここで、注意が必要なのは、商標自体が同一又は類似あり、かつ指定商品・指定役務も同一又は類似である場合には商標登録を受けることができないという意味です。したがって、指定商品・指定役務が非類似であれば、商標そのものが同じようなものであっても別々の者が商標登録できます。
商標登録の効果
商標登録をすると、「商標権」という権利が発生します。
商標権の内容は、上述のように、指定商品・指定役務について登録商標を独占使用できる権利といえます。
この点、もう少し詳しく述べますと、商標に関する法律である商標法上、商標登録をした者、つまり、商標権者は、登録商標と同一の商標を指定商品・指定役務と同一の商品・サービスについて独占使用できます。
商標権者がその範囲で独占使用できるということは、その反対解釈として、商標権者以外の者は、その範囲(同一商標を同一の商品・役務)について使用することができなくなります。
以上は、あくまで”同一商標、同一商品・役務”についての話です。
しかし、これだけだと、他人に類似商標を使われてしまいます。
したがって、商標法では別の条文を用意して、以下の範囲については、商標権者以外の者の使用を禁止することとしています。
・他人の登録商標と同一の商標を、その他人の登録商標の指定商品・指定役務と類似の商品・役務に使用すること
・他人の登録商標と類似の商標を、その他人の登録商標の指定商品・指定役務と同一の商品・役務に使用すること
・他人の登録商標と類似の商標を、その他人の登録商標の指定商品・指定役務と類似の商品・役務に使用すること
この規定により、商標権者以外の者は、商標や商品・役務が類似の範囲での使用も禁じられますので、商標登録による商標の保護が厚くなっています。
注意が必要なのは、商標法は、このような”類似の範囲”での使用について、商標権者以外の者に禁止してはいますが、商標権者に積極的に”類似の範囲”での使用を認めている訳ではありません。
したがって、商標権者は登録商標を”同一の範囲”で使用するのが基本になり、商標権者といえども、”類似の範囲”で商標を使用した場合には、さらに別の商標権者の商標権を侵害するおそれもあるのです。この点は、意外と盲点かもしれませんので、ご注意ください。
商標権の存続期間は10年間です。そして、何回でも更新をすることができますので、半永久的に商標権を維持することが可能です。
したがって、商標登録を維持するために特許庁に納付する登録料も10年分ずつ収めるのが基本になります。
最近では、5年ごとに登録料を収める方法も周知されていますが、これは、登録料が割高になる可能性もありますので、あくまでライフサイクルが短いような商品・サービスに限定して利用されるべき制度と考えられます。
商標登録する2つ目の目的が実は重要
ここまで、商標登録についての実務的に必要な基本を述べてまいりました。
最後に1番重要なことを述べます。
まず、以上の説明より、商標登録のまず最初の目的は、商標を独占使用することです。
つまり、商標を同業他社などにマネされないようにするためです。このことは、上で述べた”商標の保護=信用の保護”という面からも非常に重要です。
しかし、商標登録にはもう1つ重要な目的があり、むしろ、こちらの目的の方が1つ目の目的よりも重要かもしれません。
それは、”商標を安全に使用するため”です。
「商標登録の効果」の項目でも述べましたが、商標権者以外の者は、商標権者の商標について、”同一の範囲”や”類似の範囲”での使用を禁じられています。使用を禁じられるとは別の言い方をすると「商標権侵害」をすることであり、場合により、その商標の使用中止を求められたり、損害賠償を請求され得るということです。
つまり、ご自身の商標を商標登録していない場合、その商標を他人が商標登録してしまう、或いは、もう商標登録されてしまっているかもしれないのです。商標登録をしていないと、知らぬうちに、他人の商標権を侵害してしまうかもしれないのです。
事業を行っている以上、他人の権利を侵害するような行為は何があっても避けるべき行為ですので、まずはご自身が商標権侵害をしてしまう前に商標登録を済ませておくべきでしょう。
ちなみに、ご自身の商標と同じような商標を他人が商標登録をしてしまうなんていう偶然は起こりっこないとおっしゃる方も結構いるのですが、1年間で20万件近くの膨大な数の商標登録出願がありますので、商標を他社に取られてしまったというのは比較的によくある事柄です。
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