ある商標を使おう、或いは商標登録をしよう、という場合には、通常、「商標調査」を行います。
商標調査は、基本的には、商標のデータベースを検索して、ご自分の商標と同じような商標が既に商標登録されていないかどうかを確かめる作業になります。
商標調査で、既に同じような商標が他者によって商標登録されていることが判明した場合、非常にざっくり言うと、次の2つのことが問題となり得ます。
1.その商標を使ってしまうと、その他者の商標権を侵害するおそれがある。
2.その商標を商標出願しても、商標登録できないかもしれない。
したがって、商標調査はとても重要になります。
ところで、上述した”商標のデータベース”に関して、最も代表的なものは、特許庁が提供している「J-PlatPat」というデータベースです。こちらのデータベースは、商標に限らず、特許、実用新案、意匠の調査などにも使えます。そして、「J-PlatPat」は、無料で使えますので、気軽に利用できます。
そのため、弁理士や大手企業の商標・知財担当者に限らず、一般の方も利用されていて、商標調査もある程度、ご自分でなされる方もいらっしゃるようです。このように一般の方が商標調査を行って、ご希望の商標と同じような商標が既に登録されていることを発見したときに、どのような対応をすればよいか、という点について、本稿ではご説明したいと思います。
まずは商品・役務
商標が同じようなものであったとしても、商品・役務が「非類似」であれば、基本的には問題ありませんので、まずは商品・役務を確認するべきです。
”商品・役務を確認”とは、見つかった登録商標の指定商品・指定役務と、ご自分がその商標を使用して行おうとしているビジネス(取扱い商品・サービス)とを比較することです。
もう少し具体的に言いますと、登録商標の指定商品・指定役務は45通りに分類されたいずれかの区分に属しています。よくある誤解は、登録商標の指定商品・指定役務の属する区分と、ご自分のビジネスの区分が同じだと、商品・役務が類似で問題アリという判断なのですが、これは必ずしも正しいとは言えません。商品・役務は区分よりもさらに細かい「類似群」という単位に分けられていて、各類似群には「類似群コード」というコードが付与されていて、同じ類似群コードの商品・役務同士が類似するものと推定されます。
以上より、まずは、見つかった他人の登録商標の指定商品・指定役務の類似群コードと、ご自分のビジネスにおける取扱い商品・サービスの類似群コードとを比較し、類似群コードが共通していれば商品・役務も類似のため問題アリ、類似群コードが異なれば商品・役務は非類似のため問題ナシ、と一応考えることができます。
次に商標
次に、その見つかった他人の登録商標と、ご自身が使用や登録を希望している商標とが同一・類似であるのか、今一度検討すべきです。
両商標が全く同じ、つまり同一の商標であれば、残念ながらあまり検討の余地はないと考えられます。
しかし、類似とお考えになっているケースでは、もしかすると専門家が検討すれば非類似と判断されるかもしれません。
商標も商品・役務も同一・類似の場合
この場合、上述しましたように、ご希望の商標を商標登録することは困難であると予想されます。
また、商標登録できないだけならまだしも、他人の商標権を侵害するおそれもあります。
したがって、慎重な対応が必要と考えられます。
・商標登録出願
商標が他人の登録商標と類似と特許庁に判断される可能性がある場合でも、”ダメ元”で商標出願する選択肢もあります。もし仮に予想に反して商標登録が認められれば、その他人の登録商標とは非類似と特許庁が判断したことになります。(ただし、商標権侵害があるかどうかの判断は裁判所の判断になります。)
私見では、”ダメ元”の商標出願はお薦めできないため、実務においても弊所では”ダメ元”商標出願はお薦めしておりません。
・別の商標を採用
現実的には一番無難な対応策と考えます。他者の商標権侵害のリスクがありますので、改めて商標調査をしたうえで、安全な商標を選択して、その商標で商標登録を目指すべきです。
・商標権の使用許諾(ライセンス)、商標権の譲受(買取)
どうしても、その商標を使わざるを得ない場合には、その他者から商標権の使用許諾、いわゆるライセンスを受けることも考えられます。商標権の使用許諾は実務的にも比較的に多く行われています。しかし、使用許諾を受けるにしても、相手方のあることですので、相手方が応ずるかどうかわかりませんし、使用許諾の条件、特に使用許諾の対価(ロイヤリティ)の額も無償でよいのか、或いは有償の場合はいくらになるのか等、不透明な部分があるのは否めません。また、商標の使用許諾も契約ごとなので、契約期間がありますので、その点も注意が必要です。
また、商標権の譲渡を受ける、つまり商標権を買い取るという手法もあります。こちらも交渉ごとなので、相手方が譲ってくれるとは限りません。商標権の価格もいくらになるのかわかりまえんし、あまり現実的ではないと考えられます。
・商標登録の取消、無効
他人の登録商標に対する対抗手段として、商標登録の取消審判や無効審判といったものもあります。
これらは、特許庁における法的な手段になりますが、当然、取消や無効にするための法的根拠が必要です。このような十分な根拠があれば有効な手段ともいえます。
まとめ
商標調査で、ご希望の商標と同じような他者登録商標が見つかった場合、まずは商品・役務を検討し、さらに改めて商標が類似しているかどうかを検討します。
そのうえで、商標も商品・役務も同一・類似と考えられる場合、理想的には、別の商標の採用を検討することです。
いずれの判断においても専門家である弁理士に一度ご相談をされることをお薦め致します。