元号に関する商標審査の運用変更

2018年6月、特許庁より、元号に関する商標の審査の取り扱いについて発表がありました。
現在の元号「平成」から、次の新しい元号へ変わることが予定されていることもあって、このような発表があったものと思われます。

具体的な商標審査の運用変更について、以下にご説明致します。

商標登録の要件 自他商品役務識別力

冒頭述べました元号に関する商標審査の取り扱いをご説明する前に、まずは、前提となる商標登録の要件等について、ご説明します。

商標は、簡単に一言でいうと”自分(自社)の商品・サービスと、他人(他社)の商品・サービスとを区別するための標識です。
つまり、商標には、自分の商品・サービスと、他人の商品・サービスとを区別することができる働きが要求されます。(”自分の商品・サービスと、他人の商品・サービスとを区別することができる働き”ができる能力を「自他商品役務識別力」と呼びます。)
そこで、特許庁に商標登録される商標に関しても、商標登録の要件として、自他商品役務識別力を備えていることが必要となります。逆に言えば、自他商品役務識別力の無い商標は、商標登録の要件を満たさず、商標登録されないことになっています。

自他商品役務識別力の無い商標とは?

前述した商標登録を受けることができない自他商品役務識別力の無い商標とは、どのような商標なのかという点については、商標法の第3条に規定されています。具体的には、概略、以下のような商標が自他商品役務識別力が無いと規定されています。

1.商品・サービスの普通名称
2.商品・サービスについて慣用されている商標
3.商品・サービスの産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、数量、価格等を表すに過ぎない商標
4.ありふれた氏又は名称
5.極めて簡単でありふれた商標
6.その他、誰の商品・サービスか認識できない商標

ここで、上記6.”その他、誰の商品・サービスか認識できない商標”とは、1.~5.に該当しない自他商品役務識別力の無い商標を指している総括的な意味合いがありますが、具体的に、どのような商標が6.の商標に該当するのかわかりにくいのですが、特許庁の「商標審査基準」には、この点、もう少し詳しく書かれていますので、次の項目でご案内します。

誰の商品・サービスか認識できない商標とは?

上記6.”その他、誰の商品・サービスか認識できない商標”は、商標法第3条第1項第6号に規定されていて、実際の条文は以下の通りです。

「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」

この条文に関し、商標審査基準では、例えば、次のようなものが該当すると記載しています。

・宣伝広告・企業理念・経営方針のみと認識される商標
・単位など(例「メートル」「グラム」「Net」「Grosss」)
・現元号
・地理的名称(事業所の所在地、商品の仕向け地など)
・小売業における取扱商品の産地、品質、原材料、効能、用途、形状等を表すに過ぎない商標
・単なる地模様
・店舗・事務所形状
・店名としてよく使われている商標

つまり、これらの商標は原則として、商標登録を受けることができないと考えられます。
(なお、一見、これの商標に該当することから、ある商標について商標登録できないとご判断するのは、専門家である弁理士に問い合わせる等したうえで、慎重に行ってください。)

元号に関する商標審査の取り扱い

ここから、冒頭述べた本題に入っていきます。

”その他、誰の商品・サービスか認識できない商標”に、「現元号」が含まれていることを上述致しました。
つまり、現行の商標審査基準上、現元号、現在で言えば「平成」や「HEISEI」などは商標登録できないとされています。
また、この商標審査基準は別の見方をすれば、旧元号は商標登録できそうです。ですので、実際、「明治」「大正」「昭和」などといった商標が商標登録されています。

さらに、2019年5月の改元を迎えると、「平成」は”旧元号”となります。
となると、現行の商標審査基準に基づいた特許庁の商標審査の運用ですと、その他の商標登録の要件を満たしていれば、2019年5月1日以降、「平成」は商標登録できることになります。

ところが、今回特許庁が発表した「元号に関する商標の取扱いについて」により、原則として、旧元号も商標登録を認めないという特許庁の考えのようなので、改元後も「平成」を商標登録することは困難であることが予想されます。


無料相談はこちら。

トップページ