本ブログ記事のタイトルは、やや長いのですが、それでも本ブログ記事の趣旨がタイトルからは伝わりにくいと考えられますので、まずは、タイトルの趣旨からご説明致します。
商標登録をする意味のおさらい
弊所ホームページの各所、あるいは本ブログでも商標登録をする主な意味は繰り返して述べております。
主なものは2つあります。
1.自分の商標(ネーミングなどの文字やマークなどの図形)を他人に模倣(わざとマネをされる場合も偶然同じようなネーミング・マークを使用される場合も含む)されるのを防ぐため。
2.自分が使っている商標と同じような商標を他人に先に商標登録されてしまって、自分の商標が使えなくなってしまうのを防ぐため。
私の印象では、中小企業・個人事業主の方の場合、上記1.すなわち、他人に商標をパクられるのを防ぎたいというのが商標登録の第1の目的になっていることが多いように思われます。
しかし、基本的には、まず、自分の商標を安全・安心に使えて初めて、他人からの模倣について考えるべきと思われますので、私見では、上記2.の商標登録の意味を最重要視すべきと考えています。
そして、本ブログ記事では、特に上記2.の商標登録の意味が関係してきますので、頭の片隅に置いて置いて頂けると良いかと思います。
商標登録の主な要件のおさらい
商標登録の主な要件も弊所のホームページや本ブログでは頻出かもしれません。
特許庁に商標出願をすると、特許庁にて、出願された内容が商標登録の要件を備えているかが審査されます。
商標登録の要件はたくさんありますが、特許庁の審査において、よく問題になる主な商標登録の要件は、次の2つです。
1.商品・サービスの”一般的な名称”は商標登録を受けることができない。
2.他人の登録商標と同一又は類似の商標は商標登録を受けることができない。
本記事と関係があるのは、上記1.の商品・サービスの”一般的な名称”だから商標登録できない、という要件です。
商標とは、ある事業者の商品・サービスを、その他の事業者の商品・サービスと区別するための標識です。
商品・サービスについての一般的な名称は、その商品・サービスの普遍的な名称であるため、基本的には、そうした一般的な名称では、その商品・サービスがどの事業者の提供にかかわるものか区別できません。
つまり、一般的な名称では、誰の商品・サービスであるかを区別する商標の働きができないので、そのような名称は商標登録できないとされているのです。
また、そうした一般的な名称は、その商品・サービスの業界の事業者は誰しもが使用する必要があるので、商標登録を認めて、その一般的な名称を1事業者が独占使用できるようになってしまうのも困るという考え方もあります。
特許庁に商標出願をしたけど商標登録できなかった場合に考えるべきこと
特許庁に商標出願したけど商標登録できなかった場合とは、特許庁における商標審査に通らなかった場合のことです。
上述の主な商標登録の要件に引っかかって商標登録できなかったとすると、次のように考えることができます。
1.出願した商標が商品・サービスの一般的な名称と特許庁に判断されてしまった。
2.出願した商標が他人の登録商標と同一又は類似と特許庁に判断されてしまった。
まず、上記2.から触れます。出願した商標が他人の登録商標と同一又は類似と判断された事例です。
この場合は、やや厄介です。
出願した商標が他人の登録商標と同一又は類似と判断された訳ですから、その商標を使ってしまうと、その他人の商標権を侵害してしまうことになる可能性があるからです(もっとも、この時点で同一・類似と判断したのは特許庁で、商標権侵害になるかどうかという判断は裁判所になります。)。
そのため、この事例では、一般的には、出願した商標を使用することは諦め、別の商標を採用することを検討するべきと考えられます。
本記事で特に取り上げるのは、上記1.の事例です。つまり、特許庁に、出願した商標が商品・サービスの一般的な名称と判断されてしまったケースです。
上記1.の事例と上記2.の事例とは異なり、誰かの登録商標と同一・類似と判断された訳ではないので、早急にリスクがある訳でもありません。
むしろ、次のように考えられなくもありません。
出願した商標が特許庁に一般的な名称と判断されて商標登録できなかった ⇒ つまり、誰がこの商標を出願しても商標登録されることはない ⇒ だから、この商標が誰かに商標登録されてしまって自分がこの商標が使えなくなってしまうことはない(上記商標登録の意味の2つ目をご参照) ⇒ だから、この商標を使っても安全である
このロジックも誤りとは言いにくいのですが、しかし、必ずこの通りになるとも言い切れないのです。
ちなみに、ここまで”一般的な名称”と述べてきましたが、商品・サービスの一般的な名称で、誰の商品・サービスか区別できないことを専門的な言葉でいうと”識別力がない”と言います。逆に、商品・サービスの一般的な名称でなく誰の商品・サービスであるか区別をすることができる商標を”識別のある”商標と言います。
上のロジックに話を戻しますと、特許庁が一般的な名称と判断すること、つまり、特許庁の識別力の有無の判断は、いつも一定という訳ではなく、その時々によって変わってくることがあります。ですので昔は識別力が無いと考えられていた商標でも今の判断では識別力があると考えられることもありますし、逆に、以前は識別力があると考えられていた商標でも現在では識別力が無いと考えられることもあります。時代の変化によって、取引環境・状況等も変わり、識別力の有無にも変動があるということです。
またさらに言えば、一般的と特許庁に判断されてしまった商標を担当した弁理士に力量によって、反論して商標登録にもっていける場合もあれば、商標登録にもっていけない場合もあり得ます。
さらに、これを言ってしまうと元も子もありませんが、特許庁の審査官も判断ミスをすることがあります。
以上のような事情を考慮すると、必ずしも上のロジック通りになるとも言えず、識別力が無いと判断されて商標登録できなかった商標であっても、商標登録しないまま使い続けていて未来永劫安全とは言い切れないのです。
識別力無しで商標登録できなかった商標を商標登録する矛盾の解決方法
特許庁に識別力が無いという理由で商標登録を拒絶された商標を、商標登録しないで使い続けると安全ではないと述べました。
これを意訳すると、”識別力の無い商標でも商標登録しておいた方が安全”となりますが、矛盾を感じませんか?
識別力の無い商標は、商標登録の要件を欠くので商標登録できないはずです。
このように、本来、識別力の無い商標でも商標登録にもっていくテクニックはあるのです。
その典型的な方法を以下にご案内します。
具体例をお示しします。
商品が「コーヒー」である場合、「ブラック」という商標が商標登録できないでしょう。
商品「コーヒー」に「ブラック」という名称は、単に「無糖コーヒー(ブラックコーヒー)」という品質を表すに過ぎない”一般的な名称”と考えられ識別力がありません。
ここで、「ブラック」を商標登録する1つ方法は、これに「ハウスマーク」を組み合わせる方法です。
ハウスマークは、「社章」であり、会社のマークです。
「サントリー ブラック」、「ポッカ ブラック」という具合に、ハウスマークと「ブラック」を組み合わせた商標にして商標登録をするのです。
ハウスマークは、通常、識別力を有しているケースが多いので、識別力の有るハウスマークと識別力の無い名称との組み合わせであれば、商標全体としては識別力が有ると考えられますので、識別力が無いことを理由に商標登録できないということにはなりません。
色々な登録商標を見ていると、このように「ハウスマーク+識別力のない文字」という組合せ商標が散見されます。
このような商標登録をしておけば、識別力が無いと考えていた商標が、将来時代の変化で識別力を有するようになったり、特許庁審査官のミス等があっても安心して使用することができます。