弁理士や特許事務所のホームページなどで、”弊所の商標登録率は〇〇%”といった表示・広告をご覧になられたことはあるでしょうか?
今でもこのような表示や広告をしている弁理士・特許事務所があるのか不明ですが、商標にしても特許にしても、こうした表示・広告は推奨されるべきものではありません。
”○○%”の数字にウソ偽りがなくても、取扱件数が少ないとあまりあてにならない数字と考えられるからです。
極端な例だと、商標を1件出願して、それが商標登録されれば、商標登録率は100%になりますが、果たしてその”100%”にどの程度の意味があるのか大いに疑問があるためです。
また、クライアント様のご意向により、”ダメもと”で出願する場合もあります。
商標の事前調査で、その商標を商標登録することが困難と予測される場合でも、クライアント様の中には、それでも商標出願をしてチャレンジしてみたいと希望される方もいらっしゃいます。
このようなケースでも予想に反して商標登録できることもありますが、予想通り商標登録できないことも多々あり得ますので、こうした事例が増えると商標の登録率は下がります。
以上のことから、”登録率〇〇%”といった数字は、必ずしもその弁理士や特許事務所が優秀であることを示す数字であるとはいえないのです。
そうはいっても、せっかく商標出願をするのであれば、是非とも特許庁の商標審査に通って商標登録をしたいものです。
そこで、本稿では商標登録率を上げるポイントについて考察をしたいと思います。
誰がやっても同じケース
クライアント様から、”この商標、商標登録できるかな?”というご質問を頂くことがよくあります。
このご質問に対して、多くの場合、”100%商標登録できますとか、100%商標登録できませんとか、断定的なことはいいませんよ。”と前置きをします。
商標登録をするしないは特許庁の判断によります。まれに予測不能な判断を特許庁はすることがありますし、極端には特許庁も判断ミスをすることもありますので、我々弁理士としても決して断定的なことはいえないのです。
とはいえ、内心では”この商標はほぼ確実に商標登録できる、この商標の登録は無理”と判断している場合もあります。
このようなケースでは、特許庁がよほどおかしな判断をしない限りは、どの弁理士が商標出願等の手続を行なっても結論は変わりません。ですので、こうしたケースで弁理士の力量によって商標登録率を上げる(或いは下げる)のは難しいと考えられます。
商標登録できるか微妙で拒絶理由通知書が来てしまったケース
商標出願をすると特許庁において、その出願された商標を商標登録すべきか否かの審査をします。
特許庁が商標登録を認める判断をした場合は、「登録査定」という文書が届きます。
一方、特許庁が商標登録を認めないと判断した場合は、いきなりバッサリと登録を拒絶する訳ではなく、一旦、「拒絶理由通知書」という文書を送ってきます。
拒絶理由通知書には、文字通り、商標登録を拒絶すべき理由が書かれており、これを商標出願人に通知するための文書です。
そして、拒絶理由通知書に対しては、「意見書」という文書で反論をし、特許庁に当該商標について商標登録すべきか改めて再考を促すことができます。
上述した”誰がやっても同じケース”で、商標登録が無理と考えられる場合も一旦は拒絶理由通知書が来ます。この場合は、どの弁理士がどういう意見書を書いても商標登録は難しいと考えられます。
しかし、商標登録できるか微妙なケースでは、意見書の内容次第で、その商標を商標登録できるかできないかが変わってくると考えれます。
つまり、商標登録できるか微妙なケースでの拒絶理由通知書に対する意見書が商標登録率を上げるポイントといえます。
商標登録率を上げる意見書とは?
拒絶理由通知書に記載されている商標登録を拒絶すべき理由は様々ですし、個別の案件ごとに、意見書の内容は当然のことながら変わってきます。
そのため、意見書に何をどう書けば商標登録率を上げられるのかと一概に申すことはできません。
しかし、ポイントを1つ挙げるとすれば以下の通りです。
拒絶理由の内容ごとに、意見書に書く典型的なパターンがあります。
例えば、出願した商標が、他人の登録商標と類似のため商標登録できないという理由の拒絶理由通知書に対しての意見書では、自分が出願した商標と他人の登録商標とは、外観(見た目)、称呼(呼び方)及び観念(意味合い)について、それぞれこう違っているので両商標は非類似だ、というような意見書の記載は典型的なパターンなので、弁理士ごとに違いがあまり出ない、つまり商標登録率を上げるポイントではないと考えられます。
意見書では、出願した商標に関連して、その商標に関わるビジネス、実際の取引の実情などを記載することがあります。
私見では、この取引の実情などの記載が意見書では最も重要で、商標登録率を上げるポイントになると考えています。
特許庁は、こうした取引の実情を知らないか、或いは気付いていないと考えられますので、取引の実情に基づいて、出願した商標は商標登録されるべきだと特許庁を納得させるような意見書が書けると、商標登録率を上昇させることが可能であると考えられます。