2017年9月下旬、小池東京都知事が立ち上げた新党「希望の党」がニュース等で世間を騒がせています。
そんな「希望の党」に関連して、「希望の党」の名称が既に2017年2月に小池氏名義で商標登録出願されていて、同年9月1日には商標登録されていたことが報じられています。
この報道は、遅くとも今年2月の時点で、小池氏には既に新党結成の構想があったと予想できるという趣旨で主に報じられていると思われます。
個人的には、絶妙のタイミングで商標登録出願をされたのだなと感心しています。
また、この「希望の党」の商標登録に関する一連の報道では、小池氏が「希望の党」を商標登録をした理由を以下のように説明していると報じています。
「『誰かに取られるよりは』と先に登録した」
この商標登録をした理由、一見すると当たり前のようにも思えるのですが、個人的には非常に素晴らしいと思っています。
なんのために商標登録をするのか?
中小企業の方や個人事業主の方を対象として、商標に関する業務を行う中で最も苦労することの1つは、商標登録をする目的を理解して頂くことです。
中小企業や個人事業主の方々は、それぞれに商標登録制度の存在意義や目的を独自に理解されていることが多いです。
その多くは、”商標登録をすることによって、その商標を独占使用できる。だから、他社にパクられることはない。”という趣旨での理解です。
もちろん、この理解も間違っているとは言い切れませんが、この理解ですと、幾つかの点で誤解をしてしまいかねません。
”商標登録をすれば商標を独占使用できるからパクられない”の誤解1
商標登録をしておけば商標をパクられないという理解からくる誤解の1つ目は、”パクられない”という部分に関係しています。
”パクる”、”パクられる”というのは、”他人の商標を知って、ワザと意図的に、それと同じような商標を使用すること”というようなニュアンスとして把握できるのではないでしょうか。
”パクられる”をこのようなニュアンスとして把握すると、中小企業・個人事業主の方は、口をそろえてこう言われます。
”ウチの商標は認知度が低い(あるいはブランド力がない)から誰もパクらない。だから、商標登録は必要ない。”
この発言も正しいと思います。確かに、大企業の商標を、大企業の知名度等にあやかってマネをするケースは想定できますが、中小企業・個人事業主の商標をあえてマネしようとは思わないと考えられるからです。
しかし、世の中に同じようなネーミングの商標が多数存在しているのも事実です。
これは、パクリの場合もあるでしょうが、同時に、偶然の一致で同じような商標を採用しているケースも非常に多いと考えられます。
つまり、商標登録をして他社に同じような商標を使われてしまうのを防ぐのは、”パクり”だけでなく”偶然の一致”も防ぐ意味があるのです。
この点は商標登録をする意味合いについての誤解の1つといえます。
”商標登録をすれば商標を独占使用できるからパクられない”の誤解2
実は、この2つ目の誤解の方が大きな問題です。
また、冒頭ご紹介した小池氏の商標登録の理由「『誰かに取られるよりは』と先に登録した」と関係していますし、また、上述した誤解1の場合と同様に”パクられない”という発想とも関係します。
まず、”パクられない”という発想ですが、これは、ご自分が商標をパクられてしまう被害者になるかどうかという発想に基づいていると考えられます。
しかし、”商標登録をすれば商標を独占使用できる”ことの裏返しを考えると、次のようなことがいえます。
アナタがご自分の商標を登録していないと、他人がアナタの商標と同じような商標を登録してしまう可能性がある。
もしそうなると、その他人がその商標を独占使用できることになる。
そうすると、アナタがその商標を使えなくなる。別の言い方をすると、アナタが他人の登録商標をパクる(知ってワザとマネたかどうかは関係なく)加害者になってしまうということです。
これを防ぐために、ご自分の商標を他人に商標登録されてしまう前に、ご自分で商標登録しておくべきということになります。
まさに、小池氏の商標登録の理由「『誰かに取られるよりは』と先に登録した」は、このことを言っています。
このようにご説明をすると、当たり前のように思える事柄なのですが、意外とご自分が他者の商標権侵害をしてしまう可能性があることを認識されていない方が多いと感じます。