商標には価値がない?

中小企業・個人事業主の方とお話しをしていて、よくあるのが、「ウチのブランドは認知度が低いから商標登録は必要がない。」とか、「ウチのブランドは認知度が低いからマネされる訳がないし、マネをされても構わない」といったセリフです。

こうしたセリフには色々と問題があるのですが、その1つは、ご自分の商標が”マネをされる”ということにフォーカスしているために出てくるセリフで、商標登録をしていないと、ご自分が他人の商標をマネすることになってしまうかもしれない、という視点が無いことです。
もちろん、中小企業・個人事業主の方は、商標の専門家ではないので、やむを得ないことです。

本稿では、以上の問題ではなく、「ウチのブランドは認知度が低い」という点について、述べたいと思います。

そもそも商標には価値が無い

商標に特化した弁理士として、「商標には価値が無い」というのはおかしなことかもしれません。
商標に価値が無いといっても、全ての商標に価値が無いという訳ではありません。
商標の価値を金銭的に評価するのは難しいでしょうが、世の中には数億円の価値があるともいわれる商標はたくさん存在しています。

では「商標に価値が無い」とは、どういう意味か?
これは、特許・実用新案・意匠(デザイン)という他の知的財産と比較するとわかりやすいです。

特許は発明を、実用新案登録は考案を、意匠登録は意匠(デザイン)を、それぞれ保護する制度です。ここで、保護の対象となる発明、考案及び意匠は、今までに無かった新しい発明、考案及び意匠です。そのため、特許、実用新案登録及び意匠登録で保護される発明、考案及び意匠は、それ自体に価値があるものと考えられています。

これに対して商標は、例えば、文字を並べた言葉や図形などが商標になりますが、この商標自体は、何か社会的に役に立つとか有用なものではありません。より正確に言うと、できたばかりの商標は、何の役にも立ちません。その意味で、できたばかりの商標は無価値といえます。

したがって、冒頭述べたような中小企業・個人事業主の方の「ウチのブランドは認知度が低い」というのは、”できたばかり”とは限りませんが、(ブランド=商標として)商標が無価値とまでは言わないものの、価値が低いことを表しているとも考えられます。

商標の価値とは?

商標自体に価値が無いということの説明は、商標登録制度の趣旨からも説明できます。
商標登録制度は、簡単に申しますと、商標を特許庁に登録することにより、その登録した商標は他人からマネをされることから保護されます。つまり、マネ等を排除することができます。

これを形式的に見ると、商標登録制度は商標そのものを保護しているようにも思えます。
しかし、商標登録制度は、商標そのものではなく、商標に宿った、その商標を使用する事業者の「信用」を保護するために存在しています。

商標を使用しながら誠実な事業活動を続けていくと、その商標には、その誠実な事業者の評判や信用が蓄積されていきます。こうした評判や信用によって、需要者は、その商標使用者である事業者の商品・サービスは”安心できる”とか”信頼できる”、”思わず買いたくなる”とうような感情抱くことがあります。
ですので、こうした評判や信用に価値を見出して、商標登録制度は、商標を保護することを通じて、評判や信用を保護しようとするものです。

なので、できたばかりの商標、まだ使用されていない商標、できて日の浅い商標には、一般的にまだその商標使用者の信用が商標に蓄積されていないので、そのような商標には価値が無いと考えられるのです。

先願主義という商標登録の落とし穴

以上の通り、例えば、できたばかりの商標、まだ使用されていない商標、できて日の浅い商標、認知度が低い商標は、価値が無いか、価値が小さいと考えられます。
そうすると、そのように価値があまり無い商標を、コストをかけて商標登録をする意味が無い、ということにつながります。確かに、その通りです。
商標に信用が蓄積されてきて価値が出てきたら、商標登録をすればよい、という考えが導き出されます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

商標登録制度は、「先願主義」という仕組みが取り入れられています。

先願主義とは、先に特許庁に商標登録出願した者が優先されるという仕組みです。
これは、同じような商標を他人に先に商標出願されてしまうと、ご自分の商標は登録できないということを意味します。

つまり、商標に信用が蓄積されるのを待って商標登録を考えたのでは、時すでに遅しで、他人に同じような商標を既に登録されてしまっているというケースは非常に多くあります。

或いは、最初にその商標を使い始めた、いや、その商標に決めた時点で、既に他人に商標登録されてしまっていることも十分に考えられます。

したがって、商標登録(及び事前の商標調査)は、商標がまだ無価値である段階に行うべきということになりますので、その必要性の判断が難しいといえます。

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