内容は多岐にわたりますが、知的財産に関連して”パクリ”のニュースを度々見聞きします。
エンブレム・ロゴマークのパクリ、居酒屋のメニュー・看板・内装のパクリ等々、事案は色々とあり、論点も様々ですが、往々にしてあるのが、”そっくり同じようなモノを作ったらパクリでアウト”という論調の報道です。
”アウト”、つまり違法かどうかは、法律の規定に沿って判断されますので、必ずしも”パクリ=違法(アウト)”という訳でもありません。
しかし、上述したような報道が多いため、”パクリ=直ちに違法”という誤解をされている方も多いような気がします。
そこで、本稿では、最近の”パクリ”ニュースを題材に、”パクリ”が直ちに違法ではないことを解説致します。
無印良品とカインズの収納棚事件
これは、無印良品を運営する良品計画が、自社が販売している収納棚の形状とそっくり同じ形状の収納棚を販売しているホームセンターのカインズに、当該収納棚の販売中止を求めて提訴した事件です。
良品計画は、不正競争防止法(おそらく同法2条1項1号)を根拠にしています。
この訴訟は、2016年秋に提訴されたもので、提訴時にもニュースになっておりましたので、本ブログでも当時取り上げました。(「無印良品VSカインズ 収納棚事件」)
訴えた側の良品計画の方が不利との予想をしておりましたが、2017年8月末に東京地裁の判決が出まして、良品計画の全面勝訴という内容でした。
良品計画の勝訴判決に関連して、再び、当該事件がニュースで取り上げられました。
その多くは、”カインズが無印良品とそっくりな形状(パクリ)の収納棚を販売していたから負けた”という趣旨の内容でした。
当該訴訟における良品計画の主張の根拠は、繰り返しになりますが、不正競争防止法2条1項1号です。
不正競争防止法2条1項1号の条文は以下の通りです。
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
この条文を文節してみますと以下のようになります。
1)他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として
2)需要者の間に広く認識されているものと
3)同一若しくは類似の商品等表示を
4)使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、
5)他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
”パクリ、パクリ”との報道がなされていますが、不正競争防止法2条1項1号では、パクリに関する要件は、上記の3)になりますが、この条文が適用されるためには、その他に1)、2)、4)及び5)の要件も満たしている必要があります。
パクリよりも注目すべき点
不正競争防止法2条1項1号は、本来的に商品の形状をパクリから保護する条文ではありません。
文節した1)の要件に記載の通り、「商品等表示」を保護するものです。商品等表示の後のかっこに記載されるように、本来的には商標等を保護するものです。
しかし、このかっこ書きには、「その他の商品又は営業を表示するもの」とも書いてありますので、商品の形状が「商品又は営業を表示するもの」に該当すれば、商品の形状もこの条文で保護され得るということになります。
今回の無印良品の収納棚の形状を見る限り、私見では、あまり特徴的ではなく、この形状を見てもどの事業者の商品であるか認識できないと思うので、上述した商品等表示には該当しないように思えてなりません。
ですので、どれ位両者の収納棚の形状が似ているかというパクリの部分ではなく、裁判所が無印良品の収納棚の形状に商品等表示該当性を認めた点がむしろ注目すべき点であると考えます。
その他の要件も
不正競争防止法2条1項1号は、上述のように、「商品等表示該当性」が要求されます。
また、2)「需要者の間で広く認識されている」(つまり、商品等表示が有名)という「周知性」の要件もあります。
そのため、不正競争防止法2条1項1号に規定されている不正競争行為に該当するかどうかは、単に”似ている”だけで判断される訳ではないことをご理解頂ければと思います。