今年(2017年)6月に生まれた、上野動物園のパンダの赤ちゃん、名前が公募され、8点に候補が絞られたと報じられています。
そして、それらの名前の候補は、先に無関係者によって商標登録されてしまうのを防止するため非公表とされています。
ここ数年、無関係の第三者が本家に先んじて商標出願をしてしまうといったニュースが大々的に報じられていることから、このような措置を講じているのでしょう。
しかしながら、本来、商標登録出願前の商標は、このように秘密として管理すべきものなので、当然の措置ともいえ、むしろ今までが無防備過ぎたのかもしれません。
そういう意味では、上述のような”先取り商標出願”事件も”いい勉強材料”となったともいえます(決して”先取り商標出願”を肯定するつもりはありません。)。
そこで、本稿では、商標を始めとして、知的財産の秘密保持について、述べたいと思います。
特許・実用新案・意匠には「新規性」要件アリ
商標権以外の知的財産権で代表的なものは特許権(発明)、実用新案権(考案)及び意匠権(デザイン)があります。
これら特許権、実用新案権及び意匠権は、それぞれ新しい発明、考案及びデザインを保護する仕組みです。
そのため、これら特許、実用新案及び意匠の登録要件の1つに「新規性」の要件というものがあります。
新規性要件は、特許出願、実用新案登録出願及び意匠登録出願前に、既に知られている発明、考案及びデザインは、それぞれ特許、実用新案登録及び意匠登録しないということを意味します。
そのため、特許出願、実用新案登録出願及び意匠登録出願前に、発明、考案及びデザインを公表してしまうと、出願前に知られてしまうので、新規性要件を欠き、特許、実用新案登録及び意匠登録できないことになりますので、出願前の発明、考案及び意匠は厳格に秘密として管理する必要があります(「新規性喪失の例外」という制度や公表しても発明の内容が把握できないような場合は別です。)。
以上のこと、即ち、特許、実用新案及び意匠においては、新規性要件があるため、秘密として管理をしなければならないということは、比較的知られていることと思います。
商標には「新規性」要件ナシ
一方、商標登録をするにあたっては、「新規性」の要件はありません。
商標登録の要件として、新規性の要件が無いことの理由は色々とあるかと思いますが、1つには、特許・実用新案・意匠の場合は、それぞれ新しく作り出した発明・考案・デザインに価値を認めて、これらを保護しようとするものですが、商標はどちらかという新しく作り出したものというよりは”選択物”として捉えられていて、商標そのものに価値を認めているのではなく、商標に宿った、その商標を使用する事業者の”信用”を保護する制度です。
つまり、商標登録制度は、商標が使用された結果の”信用”を保護することから、商標が使用されて既に知られているものを登録して保護するのが本来の商標登録制度の趣旨なので、商標登録に新規性要件を求めることは商標登録制度の趣旨に逆行することになるのです。
しかし、商標登録に新規性要件が無いからといって、これから商標登録出願をしようとしている商標に関する情報を公表するのは決して望ましいことではありません。
冒頭述べましたように、無関係の第三者が先に同じような商標を出願してしまうリスクがあるためです。
上述のようなニュースになった事案で先取り商標出願を行ったのは、ほとんどがそのような先取り商標出願を専門に行っている者や会社と思われますが、先取り商標出願のリスクは、こうした専門業者に限らず、同業者によっても行われる危険性があるといえます。
以上より、商標登録の要件に新規性はありませんが、商標登録出願前に商標情報を公表するのではなく、商標登録出願後に公表することが賢明です。
我々弁理士は、弁理士法上、守秘義務を負っていますので、弁理士には安心して商標情報をお話し頂いても大丈夫です。