重要性が増してきた商標登録

2020年東京五輪エンブレムの商標権・著作権上の問題が話題になっています。
そんな中、先日ヨネックスが、ゴルフ用品を製造・販売しているTour・Gという会社に商標権侵害を理由に提訴されたと報じられています。
さらに、海外の話になりますが、グーグル社の持株会社の社名が、BMW社の子会社の商標権を侵害している疑いがあるとの報道もされています。

これらの商標関連のニュースに登場しているのは、世界的なスポーツイベントである「オリンピック」、大手スポーツブランドの「ヨネックス」、世界的企業の「グーグル」。

ややもすると、商標は大企業だけが気にすればいいものと思ってしまいがちですが、本当にそうでしょうか? 

商標は、中小・零細企業や個人事業主とは無縁のシロモノなのでしょうか?

結論を申しますと、中小・零細企業や個人事業主であっても商標のことをケアする必要があります。小規模な事業者だからといって、他人の商標権を侵害しても免責されるようなことはありません。大企業だからニュースとして報じられているのであって、水面下では中小・零細企業や個人事業主が商標トラブルに巻き込まれるケースも少なからず存在しています。

では、商標登録をしないでビジネスを行うとどうなってしまうのか? 
レストランや居酒屋などの飲食店を例にして考えてみます。
ちなみに、飲食店の店舗の名称も商標登録の対象になり得ます。

まず、前提として「商標」とは何か?
簡単に言うと、自分の商品・サービスと他人の商品・サービスを区別するための標識です。

では、商標登録をするとどうなるか?
商標登録するためには、特許庁に出願手続を行いますが、その際、出願する商標と、その商標をどのような商品・サービスに使用するのかを願書に記載します。記載した商品・サービスを「指定商品・指定役務」と呼びます。飲食店の場合は「飲食物の提供」という指定役務になるのが一般的です。
商標登録されると商標権が発生します。
商標権を取得すると、商標権者は、自分の登録商標を、指定商品・指定役務について独占的に使用することができます。
他方、商標権者以外の者は、登録商標と同一又は類似の商標を、指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・サービスに使用することができなくなります。

以上が商標登録をした場合の効果です。

商標登録をしないとどうなってしまうのか?

まず最初に考える必要があるのは、他人がアナタの店の名前と同一又は類似の商標を、「飲食物の提供」について商標登録してしまう可能性があるということです。

もしそうなると、アナタが自分の店の名前を使うと、その他人の商標権を侵害することになります。商標権侵害となると、商標の使用が差し止められます。つまり、今まで使ってきた店舗名が使えなくなるということですので、看板、メニュー、店舗内装、従業員の制服、食器、ホームページ等に表示していた店舗名が使えなくなります。これは大変な損失となりますが、店舗名の変更を余儀なくされる訳ですから、それまで使用してきた店舗名に蓄積された店の評判や信用も一瞬で消え去ってしまうというとてつもなく大きな損失も生じてしまいます。
加えてに、商標権者から損害賠償を請求されることもあり得ます。

とはいえ、自分の店の名前と同一又は類似の商標を他人が出願するなんて偶然、そうそう起こることではないとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

「飲食物の提供」を指定役務とする登録商標(出願中を含む)は既に72,000件以上存在しています(2015年8月12日調査時)。
また、年間で10万件以上もの商標が新たに出願されています。
さらに、街では似通った店舗名の飲食店を多数見かけます。ラーメン屋同士、焼肉屋同士、焼き鳥屋同士、寿司屋同士で似たような店舗名が使われているのを見たことがありませんか?
余程突飛な名称を使用している場合は別として、商標権侵害の可能性は、あながち「偶然」とは言えません。

それでも、これまで問題がなかったし、そもそも商標権者に見つからなければいい、とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

確かに、見つからなければ問題とはならないかもしれませんが、見つかるのも時間の問題と考えておくべきです。
アナタも自分の店を繁盛させたいですよね。そうすると、たくさんの見込み客にアナタの店のことを知ってもらいたい。だから、人通りの多い目立つ立地に出店する、ホームページを作成する、SEO対策等をすることでしょう。そうすることで、多く見込み顧客に見つけてもらえますが、同時に商標権者にも見つかり易くなるのです。
一般的に、大企業は、多くの者が使いたくなるような、所謂「いいネーミング」の登録商標をたくさん持っています。ですので、大企業の商標権を侵害してしまう可能性は比較的に高いです。大企業では、自社の商標権が侵害されていないかを監視する専門部隊がいます。そして、彼らは基本的に侵害者がどんなに規模が小さい事業者でも警告書を送って商標の使用差止等を求めてきます。
商標権者が小規模な事業者であった場合でも、せっかくコストをかけて商標登録をしたのですから、自分の商標権を侵害している者を発見したら黙ってはいないでしょう。
このように考えると、「今後も商標権者に見つからないから大丈夫」という発想は非常に危険です。

肝要なのは、他人に商標登録されてしまう前に、自分が使用している商標を登録することです。

次に考えるべきは、他人がアナタの店の名前をマネしてきた場合です。
アナタの店が美味しいと評判になったとします。これを見た他人が、人気店のアナタの店にあやかろうと同じような店舗名の飲食店を開業しました。しかし、マネたのは店舗名だけで、料理は似ても似つかない程マズかった。アナタの店の顧客が、その他人の店を見たら、同じような店舗名なのでアナタの店に支店ができたと勘違いをするでしょう。そして、アナタの料理の味を期待して、その他人の店に入ったら思いもよらずマズイ料理を提供されてしまった。そうなると、その顧客は、アナタの店も味が落ちたと感じる、つまり、アナタの店の評判も下がってしまいます。
こんな時に、アナタはその他人に店舗名を変えろと言えるのか? アナタの店舗名を商標登録していないと難しいでしょう。

以上のように、商標登録をしないでビジネスを行うことは非常に危険です。昨今の商標トラブルに関する報道に伴い、商標に対する認知度が上昇してきている中、アナタが使用している商標と同様の商標を他人に登録される前に、商標登録をしてアナタのブランドを守っていくことが得策と言えます。

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