特許庁や、我々弁理士を束ねる日本弁理士会などは、よく「知的財産を保護する」という言葉を使います。
本稿では、この「知的財産を保護する」ことの意味を掘り下げて考えてみたいと思います。
「知的財産を保護する」といえば?
「知的財産を保護する」と聞くと、真っ先に思い浮かべるのは、「知的財産を他者からの模倣から防ぐ」ということではないでしょうか?
モノ作りをしている会社の方からは、「新しい商品を開発して発売しても、すぐにマネをされる」という話を聞くことがあります。
また、モノ作りの会社に限らず、「このネーミングをマネされると困るから商標登録したい」というお話も聞きます。
このように、「知的財産を保護する」とは、例えば、特許を取得して技術を他者にマネされないようにしたり、商標登録をしてネーミングやマークを他者にマネされないようにすることが、まずは考えられます。
「知的財産を保護する」ことのもう1つの意味は?
上述のように、「知的財産を保護する」といえば、多くの方は、自分の技術や商標を他人にマネされることを防ぐために、特許や商標登録をすることを思いつきます。
しかし、実は、「知的財産を保護する」ことの意味は、もう1つ大事なものがあります。
それは、自分の技術や商標が使えなくなってしまわないように、自分の技術や商標を知的財産権を活用して保護する、という意味があります。
具体的には、自分の技術や商標について、他人に先に特許や商標登録をされてしまって、使えなくなるのを防ぐために、まず先に自分が特許を取得したり、商標登録をして保護をするという意味です。
つまり、自分の技術や商標を安全・安心に使用していくために、知的財産権で保護するということがもう1つの意味になります。
特許と商標では保護の考え方が違う
自分の技術や商標を安全・安心に使用するために特許や商標登録をするという点で、特許と商標とでは、考え方が異なります。
(知的財産は、発明(=特許)、商標(=商標登録)の他にも、考案(=実用新案)、デザイン(=意匠登録)等もありますが、ここでは、発明(特許)と商標(商標登録)に限定して、ご説明します。)
「新規性」
特許には「新規性」という要件があります。
特許として登録されるためには、特許出願をした発明が、これまで無かったような新しい発明である必要があります。
ですので、ご自分の発明を他者にマネされても構わないのであれば、その発明の内容をオープンにしてしまえば、その後、他人が同じ発明について特許を取得することはできないので、ご自分の発明が他人に特許を取られて使えなくなるということは理論上ありません。他人がその発明を特許出願しても、「新規性」が無いことから特許要件を満たさず、特許を受けることができないからです。
一方、商標登録の要件に「新規性」はありません。
ですので、既に誰かが使用して、オープンになっている商標であっても、別の者がそれと同じ商標を商標登録してしまうことは可能です。
つまり、ご自分の商標を以前から使用していても、後から他者に同じ商標を商標登録されてしまって、ご自分の商標が使えなくなる、ということは十分に考えられるのです。
「先使用権」
特許でも商標でも「先使用権」という制度があります。
簡単にご説明しますと、先使用権とは、他人の特許出願、商標登録出願の前から使用している発明、商標は、他人に特許、商標登録されても使用し続けることができるというものです。
特許と商標とでは、先使用権が認められる要件が異なります。
商標の先使用権の要件で特徴的なのは、「周知性」の要件です。
つまり、商標で先使用権が認められるためには、先に使用していた商標が有名になっている必要があります。
特に、中小企業・個人事業主の方の場合、周知性要件がネックになり、先使用権が認められないケースが多いと考えられます。そのため、商標の先使用権は使いにくい制度といえます。
特許の先使用権には、「周知性」といった要件はありません。
結論
非常にざっくりと申しますと、発明や商標を他者にマネされたくないのであれば、それぞれ特許、商標登録をすることになります。
また、自分の発明、商標を、他者にマネされるか否かではなく、自分が安全・安心に使用するということを考える場合、特許には新規性要件や(商標よりは使いやすい)先使用権がありますので、必ずしも特許を取得しなくとも、その目的を達成し易いと考えられます。
しかし、商標の場合は、新規性要件が無く、先使用権も使いにくいため、ご自分の商標を安全・安心に使用したい場合は、商標登録をすることが得策と言えます。