特定人による大量商標出願対策に関する提言

元弁理士及び当該元弁理士が代表を務める会社による大量の商標出願が社会的に問題となっています。
特に、最近ではピコ太郎氏の「PPAP」を先取り的に商標出願をしたことで、大きく話題となりました。
同氏らは、流行語等を含め、年間1万件以上、2万件とも言われる数の商標出願を行っています。

本来、商標出願を行うには弁理士報酬と特許庁に支払う印紙代があります。
元弁理士ということで、弁理士報酬は発生しないと考えられますが、印紙代は必要です。
仮に、1年間で1万件の商標を出願するとなると、商標出願時の印紙代だけで最低でも1億2000万円かかります。
しかし、出願時の印紙代を払わなくても、特許庁は門前払いをせずに、商標出願を受理する運用を行っています。
これが、大量商標出願の1つの問題点です。

特許庁では、この大量商標出願の問題について、一応これまで対策を講じてきてはいます。
例えば、こうした大量商標出願は印紙代が支払われていないので、数か月後には、出願が却下される旨をアナウンスしたり、先取り商標出願をされてしまった”本家”が後から商標出願した場合の後願商標の審査の運用変更を行うこととしたりという措置をとっています。
しかしながら、これらの対策をもってしても抜本的な解決には至っていないようです。

素朴な感覚として、”ならば、印紙代を払っていない商標出願は、そもそも受理しなければよいのでは?”との疑問も生じます。
特許庁はこの点に関し、このような大量商標の出願人に限らず、本当にウッカリ印紙代を払い忘れた出願人がいた場合に不受理とするのは酷だから、と説明しています。
実際にはこの点について、”商標法条約”という国際的な商標に関する条約がネックとなります。
商標法条約は、商標に関する手続の国際的な調和や簡素化を図ることを目的とした条約で、日本も加盟しています。
そして、商標法条約には、”商標の出願に関し、却下・拒絶しようとする場合、合理的な期間内に意見を述べる機会を出願人に与えることなく、却下・拒絶することができない”という規定があります。
そのため、印紙代が払われていないからといって、商標出願を受理しないというのは条約との関係で難しいと考えられます。

私見では、このように印紙代が支払われていない商標出願は、受理をするけれども”出願日を認定しない”という対応をすればよいのではないかと考えます。
つまり、実際に商標出願をした日を”出願日”とするのではなく、印紙代が支払われた日を”出願日”と認定するという運用です(正確には、運用というより商標法の改正が必要となりそうです。)。
このようにすれば、印紙代が支払われる前に、本家が適正に印紙代を払って商標出願の手続を行なえば、本家の商標出願が先願となるので、印紙代を払わずに行った商標出願は、その後印紙代を払っても、本家の商標と同一又は類似ということで拒絶される可能性が大になります。

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