無関係人による先取り商標出願に対する特許庁の運用変更

ピコ太郎さんとは無関係の者によって、「PPAP」」等の商標が先取り的に出願されたことが大きく話題となりました。
これは、特定の人物及びその関連会社が大量に商標出願を行っていることが背景になります。
この特定人物及び会社によって、1年間で1万件以上の商標登録出願を行っているとの報道もあります。
ちなみに、2016年では日本全体で16万件の商標出願がありましたが、特定の人物及び会社によって1万件以上の商標出願とは相当な数といえるでしょう。
特定人による大量の商標出願は、以前から特許庁も問題視しており、2016年5月に注意喚起を行っています。
この注意喚起では、問題は解決していないようで、この度、特許庁は、商標審査の運用を変更すると発表しました(2017年6月)。

大量商標出願の問題点

特許庁の運用変更の前に、まず、こうした大量の商標出願の問題を整理します。

商標登録出願を行うにも費用がかかります。弁理士に支払う弁理士報酬と特許庁に支払う印紙代です。
弁理士報酬は、商標出願の手続を弁理士に依頼しなければ発生しません。
しかし、特許庁に支払う印紙代は、どうしても発生します。となると、大量に商標出願を行うためには相当の資金が必要となるようにも思えます。

しかし、ここが大量商標出願の問題点です。

印紙代を支払わなくても、特許庁は商標出願を受け付け、しばらく印紙代が払われるのを待ちます。
今回の発表でも明らかになりましたが、印紙代が払われなくても出願日から4~6ケ月間は手続が却下されません。

これを利用しているのが、上述の特定人物です。つまり、一切費用をかけずに商標出願を行っているのです。

これまでの特許庁の商標審査の運用

今回の特許庁の発表で、これまでの特許庁の商標審査の運用も明らかにされています。

印紙代が払われていない先取り商標出願があって、その後、本家が印紙代を払って商標出願をしてきた場合、先取り出願が却下されるのを待つことなく、本家の商標の審査を開始しているとのことです。

特許庁の商標審査の運用変更の内容

上述のように、本家の商標審査を開始する場合、先取り出願が却下される前に、本家の商標の一次的な審査結果が出てしまうことがあり、その際は、一応、先取り出願がまだ継続している(却下されていない)ので、本家の商標出願に対し拒絶理由通知がなされることがありますが、その後、先取り出願が却下されると、本家の商標は、その他の要件を満たしていれば登録査定となります。

また、今回の運用変更で、このような場合の拒絶理由通知書に、印紙代が払われていない先願商標が却下されたら登録査定を行うことを明記するようにするそうです。

このように審査の運用を変更することで、本家としては、先取り的に出願された商標が却下されるのを待たずに、なるべく早期に商標登録出願を行うことができるようになると特許庁は述べています。

なお残る問題点

特定人による大量商標出願に対しては、上述のように特許庁も対策をとってきましたが、やはり問題はまだあります。

今回の特許庁の発表内容にも記載されていますが、商標出願時に印紙代が支払われていなくても、出願が却下される前に印紙代の支払いがあれば、その出願は通常通り審査されます。
この場合も、もちろん、その他の諸々の商標登録の要件を満たしていないと商標登録されません。
ですので、「PPAP」のように著名なものは、無関係人が商標登録を受けるのは難しいと思われますが、有名でない商標の場合は先取り出願された方の商標が登録されてしまう危険性があります。
問題の無関係人は、年間1万件以上の商標出願を行っていますので、有名な流行語だけを狙っている訳ではありません。

したがって、自分の商標を守るには、なるべく早く自分で商標登録出願を行うことが最善の策といえるでしょう。

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