世代交代と登録商標

事業を行っていると、社長の交代、事務・管理部門の責任者・担当者の交代、といった事柄は、年月の経過に伴い必ず発生することです。
このような場合は、後任者がスムーズに滞りなく、且つ漏れなく担当業務を遂行できるよう、通常、”引継ぎ”が行われます。
ところが、中小企業・個人事業主様の中には、どうも登録商標に関する引継ぎが上手く行われていないのでは?と思われるケースが見受けられます。確かに、中小企業・個人事業主様の中には、登録商標をあまり多く所有していない、場合によっては登録商標を1件しか所有していないということもあるでしょう。このような場合は、何年か前に1件商標登録をしただけなので、引継ぎの際に登録商標の引継ぎをすることを失念してしまうことも十分に考えられます。

先日のこと、近所のスーパーマーケットで食品の買い物をしていたところ、ある商品のパッケージに「ザ・○○®」という表示がなされていました。(「〇〇」は、その商品の普通名称です。)
ご存知の通り、「®」は”Registered Trademark”を示す記号、つまり、登録商標であることを示すマークです。
しかし、商品の普通名称「〇〇」に、「ザ・」を付けただけでは、商標登録の要件の1つである”識別力”を有していないとも考えられるため、「本当に登録商標なのか?」疑問が生じました。もちろん、100%商標登録されることはないと断定はできないのですが。
気になって調べてみたところ、「ザ・○○」のみの登録商標は、存在していませんでした。
見つかったのは、「ザ・○○」という文字と図形要素とを組み合わせた登録商標です。厳密に言うと、この登録商標は存続期間が満了しており(商標登録の更新申請はしていない様子)、商標権が抹消されていました。

ここでの問題点は、商標権が存続期間満了で抹消されているのにもかかわらず、商品のパッケージに®の記号を付していることです。
この商品の提供者が®マークの意味を理解しているのか否か不明ですが、少なくとも過去に1件の商標登録をしている事業者なので、理解しているものと推測されます。そうであるとすると、現在も継続して商品パッケージに®マークを付しているということは、当該商標権がまだ存続しているものと勘違いをしている可能性が考えられます。
これは、冒頭申しました、登録商標の引継ぎがなされていないことが原因と思われます。つまり、その商標が商標登録されたのがいつで、だから商標権の更新登録申請はいつまでにしなければならないということの伝達ができていなかったと考えられます。特に、商標登録を弁理士を使わずに行った場合は、このように商標権を切らしてしまうことが多くなる傾向があります。もし、弁理士・特許事務所を使っていれば、適当な時期に商標権の更新についてのお知らせが届くはずです。

以上のように、登録商標に関する引継ぎができていないと大切な登録商標を失うこととなります。

加えて、繰り返しになりますが、®マークは登録商標であることを表す記号です。
ですので、商標権が抹消された商標に®マークを付した場合、登録商標ではない商標に®マークを付している状態なので、「虚偽表示」となり、最悪の場合「虚偽表示の罪」という罰則が課せられることもあり得ます。
(もっとも、今回のケースでは、仮に商標権が存続していても、登録商標は「ザ・○○+図形要素」で、商品パッケージには、「ザ・○○®」(図形要素が無い)という表示がなされていたので、いずれにしても虚偽表示の可能性はあります。)

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