他人の登録商標と同一又は類似の商標を、当該他人の登録商標の指定商品・指定役務と同一又は類似のサービスに使用すると、当該他人の商標権を侵害することとなります。
基本的には上述のようなケースは商標権侵害となるのですが、形式的には商標権侵害に見えても、商標権侵害に該当しない場合もあります。
例えば、先使用権、所定の条件を満たした並行輸入品などが挙げられますが、本稿では、「商標としての使用」(商標的使用)について、ご説明致します。
商標とは、端的にいうと、自己の商品・サービスと、他者商品・サービスとを区別するための標識です。この自己の商品・サービスと他者の商品・サービスとを区別するという商標の機能を「自他商品役務識別機能」(或いは、単に識別機能)と呼ぶことがあります。
そのため、他人の登録商標と同一又は類似の標章(商標ではなく、あえて標章と表現します。)を、当該他人の登録商標に係る指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・サービスに使用しても、この標章の使用が識別機能を発揮しない態様での使用であれば、それは「商標としての使用」ではないので、当該他人の商標権を侵害しないということになります。
「識別機能を発揮しない態様での使用」という抽象的な表現だと中々わかりにくいと思いますので、商標的使用に関連する有名な裁判例を1つご紹介します。
「巨峰事件」
「包装用容器」を指定商品として「巨峰」、「KYOHO」等の商標を商標登録しているXがいました。
これに対し、「巨峰」、「KYOHO」等の文字を大きく表示したぶどうの巨峰用の段ボール箱を製造・販売しているYがいました。
この場合、段ボール箱は包装用容器に含まれるものなので、形式的には、YはXの商標権を侵害しそうです。
しかし、結論的にはYはXの商標権を侵害しないとの判断になりました。
理由としては、Yの「巨峰」等の文字は、確かに段ボール箱に表示されているけれども、通常、段ボール箱に大々的に表示してある文字は、段ボール箱の内容物を表しているに過ぎず、段ボール箱の製造者・販売者の商標ではない、つまり商標としての使用ではない(段ボール箱の出所を識別機能を発揮していない)、ということです。一般的に、段ボール箱の商標は、内容物の表示と間違われないように、底面や隅の方に小さく表示されることから、上述のような結論となりました。
この裁判例は、40年以上前の古いものですが、同様の裁判例は他にもあり、「商標的使用」でなければ商標権を侵害しないとの理屈は既に定着しています。
また、比較的最近の商標法の改正で立法的にも処理されています。
商標法第26条第1項第6号は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」には、商標権の効力は及ばないと規定されています。
以上のように、商標的使用論によって、商標権の非侵害を主張することはできますが、個別具体的な事情に基づいて判断がなされ、侵害か非侵害かは微妙なケースも想定されます。
ですので、なるべく商標的使用論に頼ることなく、他人の登録商標と同一又は類似の標章の使用は避けることをお薦めいたします。