商標が他社の登録商標と類似しているか否かという問題は、代表的には以下の場面で起こります。
・商標登録をするとき
他人の登録商標と同一又は類似の商標は、商標登録を受けることができませんので、特許庁に商標登録出願を行って、特許庁の審査で問題となることがあります。
・商標権侵害
他人の登録商標と同一又は類似の商標を、当該他人の登録商標に係る指定商品・指定役務と同一又は類似の商品・サービスに使用すると、その他人の商標権を侵害することになりますので、ここでも商標の類似が問題となります。
以上のように、商標の類似の問題は、商標において非常に重要な場面で発生します。
商標の類否判断は、商標登録の場面と商標権侵害の場面とで、判断基準が異なるとされていますが、概ね以下のような判断基準となります。
”商標の外観、称呼及び観念、並びに取引の実情を総合的に考慮して判断する。”
取引の実情については、事案によって、かなり事情も異なる場合があるでしょう。
商標の外観、称呼及び観念については、比較的に形式的に判断することができ、膨大な量の商標登録出願を審査しなければならない特許庁における商標審査の段階で比較的に重んじられているように思われます(特に、称呼)。
2つの商標が類似しているかどうかの判断は、”類否判断”とも呼ばれることがありますが、類否判断をする際の商標の観察方法として、以下のものがあります。
・隔離観察・・・2つの商標を時と場所を異にして観察する方法
・対比観察・・・2つの商標を時と場所を同じくして観察する方法
(対比観察ではなく、隔離観察するべきと考えられています。)
・全体観察・・・2つの商標の全体を観察する方法
・要部観察・・・商標の要部(商標の識別力の点で重要な部分)を抽出して観察する方法
(全体観察が基本になりますが、要部観察も併用することが望ましいと考えられています。)
本稿では、結合商標を全体観察するのか、要部観察をするのか、という点を考えてみたいと思います。
結合商標とは、2つ以上の単語を組み合わせた文字の商標や、文字と図形を組み合わせた商標等のことを言います。
結合商標を全体観察するのか、要部観察をするのかで、類否判断の結論が180度変わってきてしまう場合もあります。
例えば、指定商品が第30類「菓子、パン」で、商標「LABRADORまんじゅう」と「LABRADOR食パン」があったとします。
「まんじゅう」と「食パン」は、明らかに区別がつくので、全体観察をした場合には、両商標は非類似と判断できるかもしれません。
しかし、「まんじゅう」も「食パン」も指定商品「菓子、パン」との関係では、商品の普通名称のため識別力は無いと考えられます。そうすると、両商標の要部は「LABRADOR」であり、要部を共通にするので、両商標は類似と判断されるかもしれません。
以上のように、結合商標の類否判断は、全体観察をするのか、要部観察をするのかで大きく結論が変わってしまうという難しさがあることに加え、いずれの観察方法を重視すべきかの判断も非常に難しい場合があります。