商標登録の要件(公序良俗違反)3 周知・著名な歴史上の人物名

商標法第4条第1項第7号は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は、商標登録を受けることができない旨を規定しております。
そうは言っても、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」とは、抽象的でわかりにくことから、特許庁の商標審査基準や商標審査便覧では、どのような商標が「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある」のか幾つかの類型を例示しています。
この例示の中でも、昨今議論が多いのは、今回取り上げる「周知・著名な歴史上の人物名からなる商標」と考えられます。
最近でもNHK大河ドラマとの関連等で「直虎」という商標を巡って争いが生じたといった報道があったことも記憶に新しいです。
以下では、主に商標審査便覧に基づいて、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標の特許庁における商標審査での取り扱いについてご説明致します。

まず大前提として、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標それ自体が直ちに公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあることにはなりません。
実際、例えば、「織田信長」、「豊臣秀吉」等といった商標が商標登録されています。

そのうえで、商標審査便覧では、周知・著名な歴史上の人物名からなる商標を使用することや商標登録することが、社会公共の利益に反し、又は社会の一般的道徳観念に反するような場合は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあり得るとして、以下のような事情を勘案するとしています。
1.当該歴史上の人物の周知・著名性
2.当該歴史上の人物名に対する国民又は地域住民の認識
3.当該歴史上の人物名の利用状況
4.当該歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係
5.出願の経緯・目的・理由
6.当該歴史上の人物と出願人との関係

商標審査便覧は、上記事情を総合考慮のうえ、「歴史上の人物の名称を使用した公益的な施策等に便乗し、その遂行を阻害し、公共的利益を損なう結果に至ることを知りながら、利益の独占を図る意図をもってした商標登録出願」であると認められると、公正な競業秩序を害するものであって、社会公共の利益に反するものであるとして、商標法第4条第1項第7号に該当すると判断するとしています。

以上は、特許庁の商標審査便覧の記述を概ね忠実に再現してご説明致しましたが、やや語弊があるのを恐れず、簡単に申しますと、歴史上の人物に関連する公のイベント等に便乗したり、邪魔をしたりして私利独占を図るような目的が伺われる商標登録出願は、公序良俗違反と判断されることになりそうです。
そして、この判断は、上述の1.~6.等の事情が勘案されますが、個人的には、特に、「3.歴史上の人物名の利用状況」、「4.歴史上の人物名の利用状況と指定商品・役務との関係」及び「5.出願の経緯・目的・理由」が重要なポイントになると考えています。

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