商標法第3条には、「商標登録の要件」が定められています。
また、商標法第4条には、「商標登録を受けることができない商標」が定められています。
商標法のその他の条文にも商標登録の要件に関わるものがありますが、とりわけ特許庁における商標の審査で指摘されがちなのが、商標法第3条第1項に定められている所謂”識別力”(商標が自社商品・サービスと他社商品・サービスとを区別し得る能力を有しているか)に関する要件と、商標法第4条第1項第11号に定められている”類似”(他人の先に出願された登録商標と類似)に関する要件です。
これらの要件に関しては、本ブログの別の記事でご説明しておりますが(識別力、類似)、本稿では、商標法第4条第1項第7号に定められている”公序良俗違反”に関する商標登録の要件について、ご説明致します。
商標法第4条第1項第7号は、「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」は商標登録を受けることができないことを定めています。
確かに、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標は商標登録されるべきではありません。
しかし、一方で、どのような商標が、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるのか、商標法第4条第1項第7号は抽象的な規定であるためわかりにくいのが難点です。
また、このような抽象的な規定を乱用して、これを根拠として商標登録を拒絶されてしまうと、特許庁の恣意的な判断で商標の審査がなされてしまう危険もあります。
そのため、特許庁では商標審査基準及び商標審査便覧で比較的に詳細に商標法第4条第1項7号について説明をしています。
本稿では、まず商標審査基準の説明に基づいて、当該規定をご説明します。
商標審査基準では、以下のような場合は、公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると例示しています。
(1) 商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。
なお、非道徳的若しくは差別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
(2) 商標の構成自体が上記(1)でなくても、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合。
(3) 他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合。
(4) 特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合。
(5) 当該商標の出願の経緯に社会的相当性を欠くものがある等、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない場合。
さらに具体的には、以下のような場合が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると例示しています。
① 「大学」等の文字を含み学校教育法に基づく大学等の名称と誤認を生ずるおそれがある場合。
② 「○○士」などの文字を含み国家資格と誤認を生ずるおそれがある場合。
③ 周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合。
④ 国旗(外国のものを含む)の尊厳を害するような方法で表示した図形を有する場合。
⑤ 音商標が、我が国でよく知られている救急車のサイレン音を認識させる場合。
⑥ 音商標が国歌(外国のものを含む)を想起させる場合。
上記②及び③については、商標審査便覧でより詳細に説明がなされていますし、議論も多い点ですので、次稿以降でさらに詳細にご説明致します。