最近、弊所では医療法人様、病院・クリニック様から、病院・クリニックの名称やロゴについての商標登録のご依頼を多く頂いております。
本ホームページにおいても、医療法人・病院・クリニック様の商標に関連する記事をこれまでも掲載させて頂いております。
「病院の商標登録」
「病院・クリニックの名称は特に商標登録をしておきたい理由とは?」
「病院・クリニックの名称に1日38円でかける”保険”」
「病院やクリニックの名称として実際どのようなものが商標登録されているか?(病院編)」
「病院やクリニックの名称として実際どのようなものが商標登録されているか?(医院編)」
「病院やクリニックの名称として実際どのようなものが商標登録されているか?(クリニック編)」
そこで、本稿では、改めて、医療法人・病院・クリニック様の商標登録について、その必要性、即ち、病院・クリニックの名称やロゴに関して、他医院に同じような商標を使われてしまうのを防止する、そして何より、ご自身が名称やロゴを使えなくなるのを防ぐために、実際の事例を交えてお伝え致します。
歯科医院同士の商標を巡る裁判事例
ここでは、歯科医院同士で、医院の名称について商標権侵害の有無等が裁判で争われた事例をご紹介します。
具体的な事例をご紹介する前に、まずは、商標に関する紛争について、一般的に言えることがありますので、お伝え致します。
ある商標を商標登録している商標権者がいて、他者が同じような商標を使っているため、商標権者が商標権侵害を理由に、その他者に同じような商標の使用を止めさせる場合、商標権者が最初に取るステップとしては、その他者に警告書を送付して当該商標の使用の中止を求めるか、或いは、その他者と交渉して当該商標の使用中止を求めるのが一般的と思われます。
つまり、いきなり裁判所に訴えるということは通常しないと考えられます。
このように、まずは裁判所を介在させるのではなく、当事者同士で商標に関する紛争が起きるのが普通であると考えられます。これは、商標に関する紛争に限らず、その他の紛争事例でも同様かもしれません。裁判になるとコストや労力が大きくなりますので。
当事者間での商標に関する紛争の場合、商標権を侵害していると言われた方は、比較的にすんなりと当該商標の使用中止要請に応じるのではないかと思われるのが商標の紛争における特徴かもしれません。
商標権者の登録商標と、侵害と言われた方が使用している商標とが類似するかどうか微妙なケースでは、すんなり使用中止要請に応じるかどうかはわかりませんが、両者の商標が同一であったり、類似していることが明らかなケースでは、商標権侵害と言われた方に勝ち目がないことが容易にわかることがその理由と考えられます。
その結果、商標を巡る争いは、当事者間で水面下で行われていることが多く、裁判沙汰になることは比較的少ないため、本稿で取り上げる裁判事例は珍しいケースと言えるかもしれません。
それでは、以下、歯科医院同士の商標権を巡る裁判の内容を簡単にご紹介します。
「九段下スター歯科医院」という歯科医院を運営している医療法人が、「歯科医業」というサービスを指定して「スターデンタル」という商標を商標登録していました。
これに対し、「赤坂スターデンタルクリニック」という名称の歯科医院を運営している者がおりまして、前記医療法人から商標権侵害を理由に東京地方裁判所に訴訟が提起されたという事例です。
登録商標が「スターデンタル」であるのに対し、「赤坂スターデンタルクリニック」です。
「赤坂」は地名であり、「クリニック」は、歯科医業など医業のサービス分野においては一般的に使用されている名称です。
そのため、商標が類似するか否かの判断において、「赤坂」や「クリニック」という部分はあまり重要な部分ではないと考えられています。
その結果、「スターデンタル」と「赤坂スターデンタルクリニック」は類似と判断され、原告である医療法人が勝訴したという裁判です。
「赤坂スターデンタルクリニック」の商標を使用していた被告は、東京高等裁判所に控訴しましたが、控訴審においても基本的に裁判所の判断は変わらず、控訴人(原審被告)敗訴という結論になりました。
商標の裁判事例からの教訓
まずは、商標に関連して裁判になるのか、当事者同士での争いになるのかは別にして、商標登録・商標権の効果を改めてご説明致します。
ある商標を商標登録すると、その商標について商標権という権利が発生します。
商標権は、病院・クリニック様の場合は、通常、「医業」などのサービス分野で商標登録をしますので、商標登録した商標を、医業の分野で独占的に使用することができる権利となります。
医業の分野で商標を独占使用できるということは、他の医院などに同じような商標を使わせないことができます。ここで、”他の医院などに同じような商標を使わせない”とは、意図的にマネされて同じような名称を使われた場合も、偶然の一致で知らずに同じような名称を使われた場合のいずれも含みますので、基本的には、これらいずれの場合でも当該登録商標と同じような商標の使用の中止を求めることができます。さらに、そのことによって被った損害の賠償を請求することもできます。
以上のように、商標登録をすることによって、他者に同じような商標を使われてしまうのを防ぐこと(又は使われてしまった場合に止めさせること)が可能になります。
中には、他者に同じような商標を使われても構わないというお考えの方もいるのですが、商標登録・商標権の効果を考えるうえで、別の視点も必要になります。
商標登録をすると、その商標を独占使用できるということは、ご自分が使用している商標を他者に商標登録されてしまうと、その商標は他者が独占使用することができるようになる結果、ご自分が使用することができなくなります(つまり、ご自分が商標権侵害をしてしまう)。
このような事態を防ぐには、他者に商標登録されてしまう前に、ご自身で使用している商標を商標登録しておくしかありません。
ですので、他者に同じような商標を使われても構わないという方でも、ご自身の商標を使い続けるためには商標登録が必要ということになります。
ここ数年来、「東京オリンピックのエンブレム問題」や「「PPAP」の無関係人による商標先取り出願問題」など、我々弁理士や商標に携わる人間に限らず、広く一般の方にも話題となる商標関連の事件も起きており、一般の方にも商標登録の必要性等が周知されてきているように思われます。
実際に、日本の特許庁に対する商標出願件数は2013年以降、顕著に右肩上がりに伸びており、2017年は17万件を超えたものと思われますし、また、冒頭述べましたように、弊所では医療関係者様からの商標登録のご依頼も増えております。
さらに、本稿でご紹介した、医療機関同士の商標に関する裁判例も出てきておりますので、今後ますます医療関係者様の商標登録は重要になってくるものと思われます。
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