商標法第九条

商標登録制度は、「先願主義」が採用されています。
これは、同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標の商標登録出願が複数件あった場合、最先の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができるという仕組みです。簡単に言うと、商標登録は、「出願日の早い者勝ち」の制度ということができます。
商標登録制度の先願主義の例外を定めているのが、商標法第九条です。

第一項

第一項は、例外の内容を定めています。
以下に示しますように、商標法第九条第一項は比較的長い条文になりますが、要約すれば、所定の条件を満たす博覧会に出品した商品又は出展した役務について使用した商標については、その出品又は出展の日から6月以内に、当該商品又は役務を指定商品又は指定役務として商標登録出願した場合には、当該商標登録出願は、当該出品又は出展のときにしたものとみなされます。
つまり、商標法第九条第一項に該当する場合は、実際の商標登録出願日よりも早い日が商標登録出願として認められるということになります。
ですので、「早い者勝ち」の商標登録制度において有利になります。
この規定は、博覧会に出品又は出展した商標が、先に無関係の第三者によって商標登録出願されてしまった場合に、正当な商標登録出願人を保護するための規定です。
商標法第九条第一項の条文は以下の通りです。

「政府等が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するものに、パリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会に、又はパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国のいずれにも該当しない国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会であつて特許庁長官の定める基準に適合するものに出品した商品又は出展した役務について使用をした商標について、その商標の使用をした商品を出品した者又は役務を出展した者がその出品又は出展の日から六月以内にその商品又は役務を指定商品又は指定役務として商標登録出願をしたときは、その商標登録出願は、その出品又は出展の時にしたものとみなす。」

第二項

商標法第九条第一項は、我が国の商標法が採用している「先願主義」の例外、すなわち「出願時の特例」の内容を規定していますが、商標法第九条第二項では、第一項の適用を受けるための手続を定めています。
当該手続の内容は、
1.商標法第九条第一項の規定の適用を受ける旨の書面を商標登録出願と同時に特許庁長官に提出する
2.商標登録出願に係る商標及び商品又は役務が、商標法第九条第一項の規定に定める商標及び商品又は役務であることを商標登録出願日から30日以内に特許庁長官に提出することが必要です。
商標法第九条第二項の条文は以下の通りです。

「商標登録出願に係る商標について前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を商標登録出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、その商標登録出願に係る商標及び商品又は役務が同項に規定する商標及び商品又は役務であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を商標登録出願の日から三十日以内に特許庁長官に提出しなければならない。」

第三項

商標法第九条は、「出願時の特例」を定めています。
商標法第九条第一項では、所定の要件に該当する博覧会に出品・出展した商品・役務に使用する商標は、商標登録出願日は、実際の商標登録出願日ではなく、当該出品・出展をした日とみなされることを規定しています。
そして、商標法第九条第二項では、第一項の規定の適用を受けるための手続が定められています。手続の一つとして、その商標及び商品・役務が第一項に定める要件を満たしていることの証明書を商標登録出願日から30日以内に特許庁長官に提出することが規定されています。
商標法第九条第三項は、当該証明書が商標登録出願日から30日以内に提出できなかった場合の救済規定です。端的に言えば、商標登録出願日から30日以内に証明書を提出できなくても、所定期間内であれば証明書を提出することができます。
これは、商標法に関するシンガポール条約(STLT)という、各国で異なる商標の手続の統一化と簡素化を目的とし、商標登録出願人の利便性向上及び負担軽減を図る条約に沿うように、我が国の商標法も改正されて盛り込まれたものです。
条文は、以下の通りです。

「証明書を提出する者が前項に規定する期間内に証明書を提出することができないときは、その期間が経過した後であっても、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、その証明書を特許庁長官に提出することができる。」

第四項

商標法第九条は、商標登録出願における「出願時の特例」を定めています。
具体的には、商標法第九条第一項で、所定の博覧会に出品・出展した場合には、実際の商標登録出願日ではなく、当該出品・出展時に商標登録出願をしたものとみなされます。
商標法第九条第二項では、第一項の規定の適用を受けるための手続要件を定めており、その一つとして所定期間内に「証明書」の提出を要求しています。
商標法第三項では、当該証明書が所定期間内に提出できなかった場合でも、経済産業省令で定める期間内であれば証明書を提出できると定めています。
そして、この商標法第九条第四項では、第三項に定める期間内に証明書が提出できなかった場合、さらに、一定の期間内であれば証明書を提出できることを規定しています。しかし、さすが、無制限で証明書を提出できる訳ではなく、第三項の期間内に提出できなかったことについて「責めに帰することができない理由」が必要となります。
条文は以下の通りです。

「証明書を提出する者がその責めに帰することができない理由により、前項の規定により証明書を提出することができる期間内に証明書を提出することができないときは、同項の規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でその期間の経過後六月以内にその証明書を特許庁長官に提出することができる。」