商標法第八条

商標法第八条は、商標登録制度における「先願主義」を規定しています。

第一項

商標法第八条第一項は、先願主義の基本的内容を規定しています。
先願主義とは、同一又は類似の商標登録出願が競合した場合に、最先の商標登録出願をした者が商標登録を受けることができるという考え方です。
商標法第八条第一項の条文は以下の通りです。

「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について異なった日に二以上の商標登録出願があったときは、最先の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。」

ちなみに、先願主義と対をなす考え方として、「使用主義」というものがあります。これは、特許庁に登録することではなく、実際に商標を使用することで商標権が発生するという考え方で、通常、使用主義の場合、先に使用を開始した者が優先されます。使用主義はアメリカ等で採用されています。

第二項

商標法第八条第二項は、2つ以上の同一又は類似の商標の商標登録出願が同日にあった場合にどうなるか、ということを定めた規定です。この場合は、同一又は類似の商標登録出願をした商標登録出願人が協議をして、協議の結果定めた1人の商標登録出願人だけが商標登録を受けることができると規定しています。
条文は以下の通りです。

「同一又は類似の商品又は役務について使用をする同一又は類似の商標について同日に二以上の商標登録出願があったときは、商標登録出願人の協議により定めた一の商標登録出願人のみがその商標について商標登録を受けることができる。」

第三項

商標法第八条第三項は、商標登録出願が、放棄・却下・取下げられた時の取り扱いを定めています。
条文は以下の通りです。

「商標登録出願が放棄され取り下げられ若しくは却下されたとき、又は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したときは、その商標登録出願は、前二項の規定の適用については、初めからなかったものとみなす。」

第四項

商標法第八条第四項は、同日に、同一又は類似の商標の商標登録出願が2つ以上あった場合に、特許庁長官がとるべき措置について規定しています。
同一又は類似の商標(かつ商品・役務も同一又は類似)について、同日に2つ以上の商標登録出願があった場合には、商標法第八条第二項で、これらの商標登録出願の出願人同士の協議で定めた1人の商標登録出願人だけが商標登録できることと定められています。
商標法第八条第四項では、この協議の結果を相当期間内に届け出るべきことを特許庁長官が商標登録出願人に命じなければならないことを定めています。
条文は以下の通りです。

「特許庁長官は、第二項の場合は、相当の期間を指定して、同項の協議の結果を届け出るべき旨を商標登録出願人に命じなければならない。」

第五項

同日に、同一又は類似の商標の商標登録出願が複数件あった場合、商標法第八条第二項で、複数の商標登録出願人による協議で定めた1人の商標登録出願人が商標登録を受けることができることを定めております。
また、商標法第八条第四項では、当該協議の結果を特許庁に届け出ることを定めています。
そして、商標法第八条第五項では、第二項の協議が成立しない場合や第四項の届け出がない場合には、「くじ」で商標登録を受けることができる商標登録出願人を定めることが規定されています。
このように、「くじ」で決めることは一見乱暴のようにも思われますが、実は理由があります。同日に複数の同一又は類似の商標について商標登録出願があって、上述した協議が成立しないとか、届け出がないから、それら複数の商標登録出願人の全てがそれらの商標登録を受けることができないとすると、そのような商標と同一又は類似の商標について後日、商標登録出願があった場合、当該後から商標登録出願された商標が商標登録される可能性が出てきて不合理な結果となりかねないためです。
商標法第八条第五項の条文は以下の通りです。

「第二項の協議が成立せず、又は前項の規定により指定した期間内に同項の規定による届出がないときは、特許庁長官が行う公正な方法によるくじにより定めた一の商標登録出願人のみが商標登録を受けることができる。」