商標法第三十二条

商標法第三十二条は、商標についての「先使用権」を規定しています。
一般に、商標の先使用権は誤解をされていらっしゃる方が多いです。
よく「うちの商標は、何年も前から使っているので、商標登録をしなくても問題ない。」というようなことを言われる事業者の方がいます。
このような場合でも、商標法第三十二条に定める先使用権の要件を満たしていれば、その通りかもしれませんが、ただ「以前から使っている」ということだけでは先使用権は認められません。つまり、後から同じような商標を登録した者には勝てません。日本の商標登録制度は「早い者勝ち」の制度だからです。また、そのようにしないと、費用をかけて商標登録をした者が不利になってしまい妥当でないからです。

商標法第三十二条に定める先使用権の要件は、おおまかに言うと次のようになります。
1.他人の商標登録出願前から
2.日本国内において
3.不正競争の目的でなく
4.商標を使用していた結果
5.その他人の商標登録出願の際、自分の商標が一定の範囲で有名になっていること

先使用権で特にネックになるのは、上記5.の要件です。
「周知性」の要件と呼びますが、一般に商標が「有名になっていること」を証明するのは困難です。
また、どの程度の周知性があれば先使用権が認められるのか不明確な面もあります。

また、先使用権の要件を満たしている場合でも、事業を拡大するとき等には先使用権が及ばないケースもあります。
さらに、商標法第三十二条第二項に定める「混同防止表示請求」なる厄介な制度もあります。

以上のことから、先使用権は「不安定」な権利ですので、先使用権に頼ることなきよう、お早めに自社商標の商標登録をお勧め致します。

第一項

第一項では、先使用権の具体的な内容や成立要件を定めています。
具体的な条文は以下の通りです。

「他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項 の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。」

第二項

第二項は、上述しました「混同防止表示請求」について規定しています。
これは、商標権者等が、先使用権者に対して、商品・サービスが混同しないように適当な表示をするよう請求することができるというものです。
先使用権者としては、この請求を受けると、商品パッケージ等の変更を余儀なくされるリスク等もあり得ます。
具体的な条文は以下の通りです。

「当該商標権者又は専用使用権者は、前項の規定により商標の使用をする権利を有する者に対し、その者の業務に係る商品又は役務と自己の業務に係る商品又は役務との混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを請求することができる。 」