商標法第五条

商標法第五条は「商標登録出願」の手続について定めています。
「商標登録出願の手続」は、特許庁に「商標登録願」という願書を提出することにより行います。

第一項


商標法第五条第一項は、願書の基本的な記載事項を定めています。
商標法第五条第一項の具体的な条文は以下の通りです。

「商標登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に必要な書面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。
一 商標登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 商標登録を受けようとする商標
三 指定商品又は指定役務並びに第六条第二項の政令で定める商品及び役務の区分」

商標登録をするためには、願書を特許庁に提出することになります。
願書は、必ずしも”書面”でなくてもよいこととされています。というよりも、オンラインで願書を特許庁に提出することの方が一般的です。
特許庁としてもオンラインで手続を行ってもらった方が事務作業が楽なので、オンライン出願を推奨しています。ですので、”書面”で手続をすると、特許庁から「電子化手数料」という追加の手数料を請求されます。

また、商標法第五条第一項の第一号~第三号より、商標登録出願に必要な情報は何かということがわかります。
まず、当然のことながら、商標登録を受けたい商標です。
次に、出願人の氏名(法人の場合は「名称)と住所です。
最後は、指定商品・指定役務と区分です。(「指定商品・指定役務」は、商標登録を受けたい商標を使用する商品・サービスのことです。商品・サービスは、「第1類」から「第45類」という45通りの「区分」に分類されています。)

つまり、要約すると、商標登録出願に必要な情報は、
「商標」
「出願人の氏名・住所」
「指定商品・指定役務と区分」
ということになります。

商標登録出願のための願書の記載事項は非常にシンプルともいえますが、
どのパターンの「商標」を出願するか?
指定商品・指定役務はどの範囲で押さえるべきか?
といったところは専門的知識がないと判断が難しいと思います。

特に「商標」は、商標登録出願後は、原則として修正変更できないことにご注意ください。
「指定商品・指定役務」の修正変更も無制限にできる訳ではありません。

したがって、願書の記載は慎重に行う必要があります。

第二項

商標法第五条第二項は、商標登録出願をするにあたり特許庁に提出する願書の記載事項のうち、特殊な商標を出願する場合の記載事項を定めています。
商標法第五条第二項の具体的な条文は以下の通りです。

「次に掲げる商標について商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない。
一 商標に係る文字、図形、記号、立体的形状又は色彩が変化するものであって、その変化の前後にわたるその文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合からなる商標
二 立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる商標(前号に掲げるものを除く。)
三 色彩のみからなる商標(第一号に掲げるものを除く。)
四 音からなる商標
五 前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める商標」

商標法第五条第二項各号に定める商標について商標登録を受けたい場合は、その旨を願書に記載する必要があります。
第一号は、2015年4月から出願することができるようになった「新しいタイプの商標」のうち「動的商標」と呼ばれる商標です。
第二号は、立体商標と呼ばれる商標です。
第三号も「新しいタイプの商標」で、色だけの商標です。
第四号も「新しいタイプの商標」で、文字通り、音の商標です。
第五号は、その他の新しいタイプの商標です。「経済産業省令で定める」としているのは、商標法の改正ではなく、経済産業省令の改正でさらに新しいタイプの商標制度が導入される余地があるということです。

以上のように、通常の文字、図形、記号などの商標ではなく、「特殊」な商標を商標登録出願する場合は、願書の記載事項に注意する必要があります。

第三項

商標法第五条第三項も商標登録出願をするための願書の記載事項を定めています。
具体的には、「標準文字」と呼ばれる、ごく普通の書体の商標を商標登録出願する場合には、その旨を願書に記載することとされています。
条文は以下の通りです。

「商標登録を受けようとする商標について、特許庁長官の指定する文字(以下「標準文字」という。)のみによって商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載しなければならない。」

標準文字で商標登録出願をする場合、当然、図形を含んだり、特殊な文字は認められませんが、以下ののような商標も標準文字としては認められません。
・30文字を超える商標
・スペースの連続を含む商標
・縦書きの商標
・2段以上の構成の商標
・ポイント数の異なる文字を含む商標
・色彩を付した商標

第四項

商標法第五条第四項は、特殊な商標を商標登録出願する場合の願書への記載事項と特許庁への提出物件を定めています。
いわゆる「新しいタイプの商標」のうち、動的商標や色彩商標のような商標の場合、商標法第五条第一項第一号や同第三号の規定に定められた記載を願書にしたたけでは、その内容が明確にならないときがあるため、願書に商標の詳細な説明を記載して明確化することとされています。
また、同じく「新しいタイプの商標」のうち、音商標については、その音を記録した記録媒体などの物件を願書に添付して特許庁への提出義務を課し、音商標の内容を明確化することとされています。
商標法第五条第四項の条文は以下の通りです。

「経済産業省令で定める商標について商標登録を受けようとするときは、経済産業省令で定めるところにより、その商標の詳細な説明を願書に記載し、又は経済産業省令で定める物件を願書に添付しなければならない。」

この条文でも「経済産業省令で定める商標」という文言が出てきますが、これは、さらに「新しいタイプの商標」制度が今後導入される可能性があり、その場合に商標法の改正ではなく、経済産業省令の改正で導入されることを意味しています。

第五項

商標法第五条第五項も「新しいタイプの商標」制度が導入されたことによって、商標法に追加された条文です。
商標法第五条第四項に定められた商標の詳細な説明の記載と物件について、登録商標の権利範囲の決定を安定的に実施できるようにするために、この記載と物件は、商標登録を受けようとする商標を特定するものでなければならないとされています。
商標法第五条第五項の条文は以下の通りです、

「前項の記載及び物件は、商標登録を受けようとする商標を特定するものでなければならない。」

第六項

商標法第五条第六項の規定は、商標の色彩に関する規定です。やや理解しづらい条文になっています。

「商標登録を受けようとする商標を記載した部分のうち商標登録を受けようとする商標を記載する欄の色彩と同一の色彩である部分は、その商標の一部でないものとみなす。ただし、色彩を付すべき範囲を明らかにしてその欄の色彩と同一の色彩を付すべき旨を表示した部分については、このかぎりでない。」

商標を構成する部分の色が、商標を記載する欄の色(地色)と同じ色の場合、その色の部分は商標の一部なのか、地色なのか、判断できないので、原則として、その同一色の部分は商標の一部ではなく地色として取り扱うこととされています。例外的に、その同一色の部分が商標の一部であるとの商標登録出願人の意思表示があった場合には、その部分も商標の一部とすることとされています。