商標法第二条のタイトルは「定義等」です。
商標法第二条には、商標法に出てくる重要な用語の定義が定められています。
第一項
商標法第二条第一項は、「商標」の定義です。
商標法第二条第一項の柱書は次の通りです。
「この法律で「商標」とは、人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であって、次に掲げるものをいう。」
ややわかりにくいですので、整理します。
この柱書は「商標の定義」というよりは「標章の定義」とみた方がよいです。
つまり、ここで定義されているのが「標章」で、標章のうち「次に掲げるもの」が「商標」ということです。標章の方が商標よりも広い概念で、標章のうちの一部が商標になるという立て付けです。
標章の定義に戻りますが、「人の知覚によって認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」です。
わかりづらい文章ですので整理しますと、標章は以下のようになります。
・文字
・図形
・記号
・立体的形状
・文字+図形
・文字+記号
・文字+立体的形状
・文字+図形+記号
・文字+図形+立体的形状
・文字+記号+立体的形状
・文字+図形+記号+立体的形状
・図形+記号
・図形+立体的形状
・図形+記号+立体的形状
・記号+立体的形状
・文字+色彩
・図形+色彩
・記号+色彩
・立体的形状+色彩
・文字+図形+色彩
・文字+記号+色彩
・文字+立体的形状+色彩
・文字+図形+記号+色彩
・文字+図形+立体的形状+色彩
・文字+記号+立体的形状+色彩
・文字+図形+記号+立体的形状+色彩
・図形+記号・図形+立体的形状+色彩
・図形+記号+立体的形状+色彩
・記号+立体的形状+色彩
以上は、2015年4月1日よりも前の標章の定義でした。
文字、図形、記号、立体的形状のいずれか、これらを組み合わせたものか、さらに色彩を組み合わせたもの、ということでした。色彩は単独では標章とは認められていませんでした。
2015年4月1日より、いわゆる「新しいタイプ」の商標として「音商標」、「色彩商標」、「位置商標」、「動き商標」及び「ホログラム商標」が導入されました。
これに対応するため、商標法第2条第一項柱書が改正されました。
「人の知覚によって認識することができるもの」、「色彩」、「音その他政令で定めるもの」の部分です。
「人の知覚によって認識することができるもの」というのは「音商標」などに対応するためです。
「色彩」については、上述しましたように、従前は文字等との組み合わせであれば認められていましたが、規定ぶりが変わって、色彩のみでも標章として認められるようになっています。
「音その他政令で定めるもの」は、文字通り「音商標」、「位置商標」、「ホログラム商標」、「動き商標」に対応する部分です。特に「政令で定めるもの」とあるのは、将来的に例えば「匂い商標」や「触感商標」などのさらに新しい商標制度を導入する際に法律改正でなく政令改正で対応する狙いもあるためです。
商標法第二条第一項には、第一号と第二号が規定されています。
それぞれ以下のような規定です。
第一号「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」
第二号「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用するもの(前号に掲げるものを除く。)」
上述のように、柱書で標章の定義がされ、標章のうち第一号か第二号に該当するものが商標ということになります。
第一号に該当するものは、商品の商標で、第二号に該当するものは、サービスについての商標です。
第二項
この規定は、小売業や卸売業を営む事業の商標も商標登録の対象にするためのものです。
商標法第二条第二項は次のように規定されています。
「前項第二号の役務には、小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供が含まれるものとする。」
小売業や卸売業で使われる商標は、従来、商標登録の対象とはされていませんでした。そのため、例えば、小売業であれば、小売販売している取扱商品全ての範囲で商標登録をする必要があり、非常にコストがかかるものでした。そのため、国際的な動向も踏まえたうえで、平成18年に商標法が改正され、平成19年4月より、小売業や卸売業で使われる商標も商標登録の対象となりました。
上記条文の「前項第二号の役務」は、商標法第二条第一項第二号のことを指していますが、これは役務商標、いわゆる「サービスマーク」に関する規定ですが、この役務には小売業や卸売業のサービスも含まれることを明確にしています。
「小売及び卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは、わかりづらい表現ですが、要するに小売事業者や卸売事業者が提供するサービスのことです。
ちなみに、小売業の商標は、例えば、ショッピングカートや店員の制服に使用している小売事業者のマークなどが該当します。
第三項
商標法第二条第三項は、標章の「使用」を定義していう規定です。
第一号から第十号まで、具体的にどのような行為が標章の使用に該当するのか記載されています。これは逆に言えば、標章を表示する行為が全て標章の使用に該当するものではないということがいえます。商標法第二条第一項柱書にあったように、「商標」は「標章」に含まれる概念です。したがって、商標法第二条第三項で定義している「標章の使用」は同時に「商標の使用」ということもできます。
商標法第二条第三項の具体的な規定は以下の通りです。
「この法律で標章について「使用」とは、次に掲げる行為をいう。
一 商品又は商品の包装に標章を付する行為
二 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為
三 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為
四 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
五 役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
六 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
七 電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によつて認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
八 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為
九 音の標章にあつては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
十 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為 」
第一号は、文字通り、商品や商品の包装に標章を表示する行為そのものを指しています。
第二号は、商品や商品の包装に標章がふされたものを譲渡などする行為です。第一号は、標章を付す行為そのものでしたが、第二号は、既に標章が付された商品や商品の包装を取引する行為です。
第三号から第七号は「役務」(サービス)についての標章の使用行為を規定しています。
第三号は、サービスを受ける者が利用する物に標章を表示する行為です。第一号と同様に「標章を付する」行為そのものを規定しています。
第四号は、サービスを受ける者が利用する物に標章を付したものを用いてサービスを提供する行為です。具体的には、例えば、レストランで、レストランの標章が付された食器を用いて飲食物を提供するサービスを行うことです。
第五号は、サービスを提供するために用いる物に標章を付して、サービスを提供するために、その物を展示する行為です。例えば、喫茶店で標章を付したコーヒーサイフォンを店内に展示する行為です。
第六号は、サービスを受ける者のサービスを受ける物に標章を付する行為です。例えば、クリーニング屋においてクリーニング後の衣類等に、標章の付されたタグを付ける行為です。
第七号は、ネットワークを通じてサービスを提供するにあたり、ディスプレイなどに標章を付してサービスを提供する行為です。
第八号は、商品やサービスの広告・取引書類等に標章を付して展示・頒布したり、ネットワーク上で提供する等の行為です。
第九号は、「新しいタイプの商標」として追加された「音商標」に対応するための音の標章の使用を定めています。第十号は、その他の「新しいタイプの商標」の使用を政令で定めるために設けられた規定です。
第四項
商標法第二条第四項は、商標法第二条第三項を補足する規定です。
商標法第二条第三項には「標章の使用」が定義されていました。「標章」には「商標」が含まれるので、商標法第二条第三項は「商標の使用」を定義する規定ともいえます。
商標法第二条第四項は、以下のように規定されています。
「前項において、商品その他の物に標章を付することには、次の各号に掲げる各標章については、それぞれ当該各号に掲げることが含まれるものとする。
一 文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合の標章 商品若しくは商品の包装、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告を標章の形状とすること。
二 音の標章 商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告に記録媒体が取り付けられている場合(商品、役務の提供の用に供する物又は商品若しくは役務に関する広告自体が記録媒体である場合を含む。)において、当該記録媒体に標章を記録すること。」
商標法第二条第四項の第一号及び第二号に含まれることも、標章の使用に該当するという規定です。第一号は、文字、図形、立体的形状など、いわゆる「新しいタイプの商標」が導入される前の従来の標章についての規定で、こういった標章の使用には、商品、商品パッケージ、サービスを提供される際に利用される物、広告自体を標章の形にすることが含まれるとの規定です。第二号は、「新しいタイプの商標」のうち、「音商標」に関する規定で、商品等に付けられた記録媒体に音の標章を記録することも、音の標章の使用に該当するとする規定です。
第五項
商標法第二条は、商標に関する定義等をしている規定です。
商標法第二条第五項は、「登録商標」を定義しています。と言いましても非常にシンプルな規定で、以下のように定められております。
「この法律で「登録商標」とは、商標登録を受けている商標をいう。」
つまり、「登録商標」は、特許庁に登録されている商標のことです。
ちなみに、「商標登録」という言葉も聞かれることがありますが、こちらは特許庁に商標を登録するという意味合いで使われています。
第六項
商標法第二条第六項は、商品と役務の関係に関する規定になります。
商標では「類似」という概念が非常に重要です。
商標の「類似」が問題になるのは、例えば、他人が先に出願して登録した商標と類似の商標は商標登録されない、他人の登録商標と類似の商標を使用すると、その他人の商標権を侵害するというような場面で商標の類似が問題になります。ここでは、単に「商標の類似」といっておりますが、具体的には、ここで問題になるのは、商標自体が類似であり、かつ、その商標を使用する商品・サービスも類似の場合です。ですので、商標自体が類似であるか否かということだけでなく、商品・サービスが類似であるか否かということも重要になります。
商標法第二条第六項は具体的には以下のような規定です。
「この法律において、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあるものとし、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあるものとする。」
異なる商品同士が類似する場合があることや、異なる役務同士が類似する場合があることは、比較的に想定されやすいです。しかし、商標法では、商品と役務が類似することも想定しています。商標法第二条第六項は、まさにこのことを規定しております。商品と役務は相互に類似する場合があることを規定しています。
ちなみに、「役務」とは「サービス」のことです。