商標の類似の範囲の考え方(2)

商標が類似するかどうか? 
つまり、2つの商標が類似するか否かについては、基本的には商標の外観(見た目)、称呼(呼び方)及び観念(意味合い)で判断されることがあります。
これらの商標の外観・称呼・観念については、「商標の類似の範囲の考え方(1)」でご説明しました。

本稿では、商標の外観・称呼・観念の他に商標の類似判断に影響を与える要素についてご説明致します。

取引の実情

商標の類似の判断は、商標の外観・称呼・観念、さらには取引の実情等を考慮して総合的に判断されます。

しかし、特に、特許庁における商標の審査の段階では、商標の外観・称呼・観念に基づいて類似の判断が行われる傾向があります。取引の実情等をあまり考慮せずに、このように、商標の外観・称呼・観念を重視して審査を行うということは、比較的に”形式的”な判断が行われているともいえます。しかし、これは、膨大な数の商標を審査しなければならないとか、商標審査において統一的な判断をしていかないといけないとか、そのような事情もあってのことと思われます。
しかし、商標の審査段階でも、拒絶理由通知(出願された商標は商標登録されるべきではない理由があるとの通知)に対して意見書で反論をする場合は取引の実情等の主張をすることは有効と考えられますし、また、特許庁の審査の次の段階である審判手続、或いは裁判所における判断では取引の実情等も重要視されます。

商標の類似の範囲の広狭

これまで商標の類似判断の手法、類似判断に影響を与える要素についてご説明してきました。
こうした手法や要素によって、画一的な範囲で商標の類似が決まる訳ではなく、広く類似と認められる場合と、狭い範囲でしか類似と認められない場合があります。つまり、商標が類似と認められる範囲(以下、商標の類似の範囲といいます)は、商標によって広狭あるといえます。
この商標の類似の範囲には広狭があることを前提に、以下ではさらに商標の類似の範囲に影響を与える要素についてご説明致します。

商標の周知性

商標の周知性とは、商標の有名度ともいえるかもしれません。
非常にざっくりとした言い方をしますと、商標が有名であればある程、商標的には有利に働くことが多いです。
つまり、周知な商標の場合、一般的には、その商標の類似の範囲は広く解釈される傾向があります。
周知商標の場合、”有名税”として、他者から模倣される機会が多くなりますが、こうした模倣から周知商標を保護すべきとの要請もあるため、周知商標の類似の範囲は広めに解釈されると考えることもできます。

一方、あまりに有名になり過ぎると、その商標の付された商品・サービスの顧客等が本家のそれと模倣者のそれとを間違えて取り違うこともないと考えられる場合もあり、そうなると類似の範囲は狭く解釈されるケースも稀にあります。

ちなみに、商標の実務では有名さのレベルに応じて、「周知」という言葉と「著名」という言葉を使い分けることがあります。著名は、全国的に広く知れ渡っている程に有名である場合に用いられ、周知は、そこまではいかない程の有名度の場合に用いられています。

商標自体の特性

商標自体の特性として、造語、つまり今までに無かった言葉でその使用者などが独自に造り出した言葉や、その商品・サービスの分野でおよそ使われることがなかったような言葉のように、”独創的な”言葉からなる商標があります。

逆に、既成語で、その商品・サービスの分野で頻繁に使われそうな言葉からなる商標もあります。ただし、商品・サービスの分野で実際に頻繁に使われているような一般的な言葉は、商標が類似するかどうかというよりは商標登録の別の要件(識別力)的に商標登録されませんので、ここでは一般的な言葉ではないけれども、”一般的な言葉のような”商標で一応、商標登録の別の要件である識別力を備えている商標ということを前提にします。

以上のような、”独創的な商標”と、”一般的な言葉のような商標”とでは、通常、類似の範囲の考え方が異なるといえます。
”独創的な商標”の類似の範囲は広く解釈され、”一般的な言葉のような商標”の類似の範囲は狭く解釈される傾向にあります。

特に、”一般的な言葉のような商標”に関しては、たまに、一般的な言葉のため商標登録されるべきではなく、つまり特許庁の審査の誤りではないかと思われるような登録商標も散見されます。
そこまでいかなくても、”一般的な言葉のような商標”の場合、同じ商品・サービスの業界の事業者としては、誰しもがそのような商標を使いたくなる、或いは使わざるを得ないこともあると考えられるのですが、この際、”一般的な言葉のような商標”の類似の範囲を広く解釈してしまうと、その商品・サービスの業界が混乱するなど弊害が多いため、商標の類似の範囲を狭く解釈する傾向があるように思われます。

まとめ

商標の類似の判断は、商標の外観・称呼・観念が基本になりますが、取引の実情も重要であり、さらには商標の周知性や独創性なども加味して行うのが賢明です。

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