SEIKO EYE事件

主    文

原判決を破棄する。
特許庁が昭和五五年審判第二一六九三号について平成二年五月三一日にした審決を取り消す。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理    由

上告代理人松田喬の上告理由第二点について

一 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1 上告人は、昭和五〇年六月一三日、別紙商標目録記載(一)に示す構成から成
る商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を商標法施行令(平成三年
政令第二九九号による改正前のもの)別表第二三類に属する商品として、商標登録
出願をしたところ、昭和五五年九月二五日、別紙商標目録記載(二)に示す構成から
成り、指定商品を同別表第二三類「時計、眼鏡、これらの部品及び附属品」とする
登録第一〇六三四一三号の商標(昭和四六年八月一一日商標登録出願、同四九年四
月二七日設定登録、以下「査定引用商標」といい、右商標権を「査定引用商標権」
という。)を引用して拒絶査定がされたので、これを不服として審判請求(昭和五
五年審判第二一六九三号)をした。

2 特許庁は、査定引用商標権の存続期間が、昭和五九年四月二七日に終了した
ため、別紙商標目録記載(三)に示す構成から成り、指定商品を前項記載別表第二三
類「時計、眼鏡、これらの部品及び附属品」とする登録第一二〇四一七三号の商標
(昭和四六年八月一一日商標登録出願、同五一年六月一〇日設定登録、同六一年商
標権存続期間の更新登録、以下「審決引用商標」という。ちなみに、査定引用商標
と審決引用商標とは、同一出願人が互いに独立の商標として商標登録出願し、いず
れも商標登録されたものであることが記録上うかがわれる。)を引用して、上告人
に対して拒絶理由を通知した上、平成二年五月三一日、右審判事件につき、上告人
の審判請求は成り立たないとの審決(以下「本件審決」という。)をした。本件審
決の理由は、本願商標の構成中の「eye」の文字部分からは「アイ(目)」の称
呼、観念が生ずるところ、審決引用商標の構成中の「EYE」の文字部分からも「
アイ(目)」の称呼、観念が生ずるから、本願商標は商標法(平成三年法律第六五
号による改正前のもの)四条一項一一号に該当し、商標登録を受けることができな
いとするものである。

二 原審は、右事実関係の下において、本件審決の判断は正当であるとして、そ
の取消しを求める上告人の請求を棄却した。その理由は、次のとおりである。

1 本願商標は、取引者、需要者に「アイ」と称呼され、「目」を意味すると観
念される。

2 審決引用商標の構成中の「SEIKO」は、わが国における著名な時計等の
製造販売業者である株式会社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示する
ものであり、同構成中の「EYE」は、「アイ」と称呼され、「目」を意味すると
観念されるところ、株式会社服部セイコーでは、その販売する時計について統一的
に「SEIKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLC
E(ドルチェ)」、「CADET(カデット)」、「CHARIOT(シャリオ)」、
「MAJESTA(マジェスタ)」等のマークを使用していることが取引者、需要
者に広く知られている。そうすると、審決引用商標に接する取引者、需要者は、そ
の構成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」
印の商品を表示するものと認識するから、審決引用商標は、「セイコーアイ」のほ
か、「アイ」とも称呼され、「目」を意味するものとも観念されると認められる。
   「EYE」の文字が、その指定商品の品質、用途等を表示するものと認める
べき証拠は存しないから、これが一般性、普遍性のある文字であるからといって自
他商品を識別する機能がないとはいえない。

三 しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次の
とおりである。
審決引用商標は、眼鏡をもその指定商品としているから、右商標が眼鏡につい
て使用された場合には、審決引用商標の構成中の「EYE」の部分は、眼鏡の品質、
用途等を直接表示するものではないとしても、眼鏡と密接に関連する「目」を意味
する一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与
える力を有するものではないというべきである。一方、審決引用商標の構成中の「
SEIKO」の部分は、わが国における著名な時計等の製造販売業者である株式会
社服部セイコーの取扱商品ないし商号の略称を表示するものであることは原審の適
法に確定するところである。
そうすると、「SEIKO」の文字と「EYE」の文字の結合から成る審決引用
商標が指定商品である眼鏡に使用された場合には、「SEIKO」の部分が取引者、
需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それ
との対比において、眼鏡と密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「EYE」
の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用さ
れている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念
は生じず、「SEIKOEYE」全体として若しくは「SEIKO」の部分として
のみ称呼、観念が生じるというべきである。
原審は、株式会社服部セイコーが、同社の販売する時計について統一的に「SE
IKO」の表示を用いるとともに、各商品を区別するために、「DOLCE」等の
マークを使用していることから、審決引用商標に接する取引者、需要者は、その構
成中の「EYE」の部分は、株式会社服部セイコーの取扱いに係る「EYE」印の
商品を表示するものと認識すると判断しているが、株式会社服部セイコーが審決引
用商標を使用した指定商品に属する商品を実際に販売しているとの事実は原審の認
定していないところであり、また、前記認定のとおり取引者、需要者に特定的、限
定的な印象を与える力を有しない一般的、普遍的な文字である「EYE」が、そう
ではないこと明らかでありかつ実際に販売されている時計に使用されている「DO
LCE」等の文字と同様に株式会社服部セイコーの販売する商品の出所識別標識と
なる、ということはできない。
これを要するに、前記認定の事情に照らせば、審決引用商標の「EYE」の文字
部分のみからは、称呼、観念は生じないというべきであるから、右部分に自他商品
を識別する機能がないとはいえないとした原審の説示には、商標の類否に関する法
令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明
らかである。この点の違法をいう論旨は理由があり、その余の上告理由について判
断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

四 そして、前記の確定した事実関係の下においては、本願商標から、「SEI
KO EYE」若しくは「SEIKO」の称呼、観念が生じないこと、本願商標と
審決引用商標とが外観において類似していないことは明らかというべきであるから、
本願商標が審決引用商標と類似するとした審決の判断は違法であり、右違法が審決
の結論に影響を及ぼすこと明らかである。そこで、本件審決の取消しを求める上告
人の請求は理由があるものとして、これを認容すべきである。
よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第二小法廷
    裁判長裁判官    中   島   敏 次 郎
       裁判官    藤   島       昭
       裁判官    大   崎   良   平
       裁判官    大   西   勝   也