商標登録における商品・役務の選択方法の実務的注意点

商標登録をする場合には、まず特許庁に「商標登録願」という願書を提出しますが、この願書には、商標登録を受けたい商標や、商標出願人の氏名・名称、住所等を記載するのはもちろんですが、その他に「指定商品・指定役務」という記載欄もあります。

商標の実務において、商標登録を受けようとする商標をどうするか?ということも非常に重要であり、また、これは意外と簡単なようで色々と議論のあるところでもあります。
しかし、商標登録をするにあたって最も悩ましいのは、指定商品・指定役務の選択であるケースが多いと考えられます。

そこで、本稿では、指定商品・指定役務の選択方法についての実務的な注意点等について述べたいと思います。

指定商品・指定役務とは?

まずは、指定商品・指定役務についてご説明します。
冒頭でも少し述べましたが、指定商品・指定役務は、出願する商標を使用する商品・サービスのことです。
つまり、その商標をどのような商品やサービスに使うのかを商標出願のときに決めて、それらの商品やサービスを指定商品・指定役務として願書に記載をすることになります。

そして、出願した商標が商標登録されると、その登録商標を商標権者が独占的に使用することができるようになるのですが、あらゆる商品・サービスに独占的に使用できる訳ではなく、指定商品・指定役務の範囲で独占的に使用することができるのです。

その意味で、指定商品・指定役務は、商標権の範囲を定める1つの指標となりますので、商標出願の際の指定商品・指定役務の選択・決定は非常に重要といえます。

また、指定商品・指定役務が、商標権の範囲を定めることになるため、指定商品・指定役務として記載する商品・サービスは曖昧で不明確なものは許されず、明確な記載が求められます。

なお、指定商品・指定役務として、複数種類の商品・サービスを記載することもできます。

商品・役務の区分とは?

指定商品・指定役務と関連するものとして、商品・役務の「区分」というものがあります。
この区分もやはり願書の記載事項になります。
商標においては、商品・役務が第1類から第45類までの45通りの区分に分類されていますので、指定商品・指定役務が属する区分を願書に記載します。例えば、商品「パン」の商標として使用する商標を登録しようとする場合は区分は「第30類」という区分になります。

指定商品・指定役務は、複数種類のものを願書に記載することができますので、区分も2つ以上の区分となる場合があります。例えば、指定商品が「パン」と「ビール」の場合、区分は「第30類」と「第32類」になるという具合です。

ここで1つご注意点は、区分の数が多くなればなるほど、商標登録にかかるコストは大きくなります。例えば、区分が「第30類」だけの1つの場合よりも、「第30類」と「第32類」の場合の方がコストが大きくなるという意味です。商標登録のコストは、特許庁に支払う印紙代と弁理士に支払う弁理士報酬になりますが、区分の数が増えると印紙代は確実に上がりますし、弁理士報酬は弁理士ごとに違うので一概には言えないものの通常は区分の数が増えると増額されます。

指定商品・指定役務の願書への記載方法

上述しましたように、指定商品・指定役務は、商標権の範囲を定める1要素であるため、明確性が要求されます。
そのため、指定商品・指定役務の記載が不明確の場合、特許庁の審査で拒絶理由通知書が発せられます。

これを回避すべく、指定商品・指定役務を明確に記載するには、「商標法施行規則別表」、「類似商品・役務審査基準」といったもの記載されている商品名・役務名を記載するのが無難です。

「商標法施行規則別表」、「類似商品・役務審査基準」に記載されている商品名・役務名を指定商品・指定役務として記載するのが基本となりますが、これらにありとあらゆる商品名・役務名が記載されている訳でもありませんので、ときにはこれらに記載の無い商品・役務を指定商品・指定役務として記載しなければならない場合もあります。
この場合は、特許庁が提供しているデータベース「J-PlatPat」を利用して、特許庁の審査等で認められた商品名・役務名を確認することもできますので、お薦めの方法の1つです。

技術革新等により、今までに無かったような商品やサービスが出てくることがあります。
こうしたケースでは、おそらく上述した方法で、適切な商品名・役務名を確認することはできないと考えられますので、明確となるよう心掛けて指定商品・指定役務を記載することになります。

上述のように、指定商品・指定役務が不明確で拒絶理由通知書が来る場合がありますが、この拒絶理由通知書では、特許庁の審査官が、「こういう指定商品・指定役務の記載に補正すれば」とのアドバイスをくれることも多いですし、また、比較的に拒絶理由を解消して商標登録に持っていきやすいことも多いので、この趣旨の拒絶理由通知書を受け取っても諦めるのはもったいないかもしれません。

区分よりも細かい「類似群」というグルーピング

先程、商品・役務は45通りの区分に分類されていると述べました。
実は、この区分は、さらに「類似群」という単位でより細かく分類されています。
そして、各類似群には、数字2ケタ+アルファベット1文字+数字2ケタ(例:30A01)からなる「類似群コード」が付されています。

商標では、”商標が類似するかどうか”が争われることがあります。
例えば、”他人の登録商標と類似の商標は商標登録を受けることができない”とか”他人の登録商標と類似の商標を使うと、その他人の商標権を侵害する”といった場面です。
つまり、商標登録できるか否か、商標権を侵害するか否かという重要な場面で”商標の類似”が問題になります。
ここでいう”商標の類似”は、厳密に言うと、商標そのものが似ているかどうかというだけではなく、商品・役務も似ているかどうかが問題になります。ですので、基本的には、商標そのものが似ていても、商品・役務が似ていなければ、商標登録できるし、商標権を侵害しないということになります。

類似群は、似ていると推定される商品・役務をグルーピングしたくくりになります。
共通の類似群コードが付された商品・役務同士は類似と推定され、違う類似群コードが付された商品・役務は非類似と推定されます。

以上のことから、商品・役務の類似という点では類似群は非常に重要な要素となります。

一方、区分は、商品・役務の類似とは直接的に関係がなく、上述しましたように商標登録のコストに影響するものとお考え頂くのが良いと思います。

指定商品・指定役務のマニアックな注意点

指定商品・指定役務について、最後にややマニアックになりますが注意点を述べます。
マニアックと申しましても、実務的には、この点を検討することも結構多いのが実態です。

例えば、アパレル・雑貨・小物類のブランドとして使用する商標やキャラクターグッズに使用するキャラクター商標の場合に、そのような商標を出願する際に、出願する商標を、具体的にどのような商品・サービスに使用するのかが定まっていないケースがあります。
加えて、こうしたケースでは、幅広い商品・サービスにその商標を使用することが想定されます。

ここでまず問題になるが、区分の数です。
具体的な商品・役務が決まっていないものの、広範な商品・役務に使用することが予測されるので、予め区分の数を多くしておいた方が良いとも考えられるのですが、上述しました通り、区分の数が増えると、その分商標登録のコストも大きくなりますので、予算との兼ね合いで適度な区分の数に抑える必要が出てきます。
(弊所では、経験上、これらの区分を優先的に指定すべきとのアドバイスをさせて頂くことも可能です。)

予算との関係で、ある程度の数の区分にするとして、次に、その絞った区分の中に含まれる商品・役務をなるべく幅広く指定するのが得策と考えられます。同じ区分の中であれば、1種類の商品・役務でも2種以上の商品・役務を指定してもコストは変わりませんので。

ここに最後の注意点が含まれます。
1つの区分の中からたくさんの商品・役務を指定してもコストが変わらないのであれば、なるべく多く指定しようと商標出願人が考えるであろうことは、商標の審査をする特許庁も折り込み済みです。
特許庁の立場としては、日々膨大な量の商標出願があり、多くの登録商標が誕生していることから、これから新たに商標を採用しようとする人のために”棲み分け”できるように、不必要に広い範囲で指定商品・指定役務を認めたくないという考えがあります。
そこで、特許庁の商標審査において、1つの区分で多くの商品・役務を指定した商標出願に対しては、”本当にそのような広い範囲の商品・役務に使用する商標なのか疑義がある”という理由で拒絶理由通知書が発せられます。

この趣旨の拒絶理由通知書に対して、実際にそのような広い範囲の商品・役務について、出願した商標を使っている(或いは使う具体的な予定がある)という証拠を提出することができれば問題はありませんが、そうでないと拒絶理由を解消するのは困難です。

そのため、こうした証拠を提出することが困難と予想される場合は、上記趣旨の拒絶理由通知書が来ない範囲内で最大限に商品・役務を指定するという実務的なコツがあります。
具体的には、上述した類似群の数を所定の範囲内にとどめることになります。

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