商標法第十条

商標法第十条は、商標登録出願の「分割」について規定しています。

第一項


商標法第十条第一項は、商標登録出願の分割の基本的事項を定めています。
具体的には、複数の指定商品・指定役務を指定している商標登録出願は、当該商標登録出願が特許庁又は裁判所に継続している場合には、分割できることを規定しています。
具体的な条文は以下の通りです。

「商標登録出願人は、商標登録出願が審査、審判若しくは再審に係属している場合又は商標登録出願についての拒絶をすべき旨の審決に対する訴えが裁判所に係属している場合に限り、二以上の商品又は役務を指定商品又は指定役務とする商標登録出願の一部を一又は二以上の新たな商標登録出願とすることができる。 」

商標登録出願の分割は、例えば、複数の指定商品・指定役務を指定している商標登録出願について、特許庁の審査において、指定商品・指定役務の一部に拒絶理由通知がかかった場合に、拒絶理由通知のかからなかった指定商品・指定役務と拒絶理由通知のかかった指定商品・指定役務を分割によって切り離し、拒絶理由通知のかからなかった指定商品・指定役務の部分については早期に登録査定を得て、拒絶理由通知がかかった部分については、継続して特許庁と当該商標の登録性を争うといった場面で利用されるのが典型的です。

第二項

商標法第十条第二項は、商標登録出願の分割の効果を規定しています。
具体的には、商標登録出願の分割があった場合には、その分割にかかる新たな商標登録出願は、その新たな商標登録出願の日にしたものではなく、分割のもととなる商標登録出願の時にしたものとみなされます。つまり、分割による新たな商標登録出願の出願日は、もとの商標登録出願の日まで遡ることになります。先願主義を採用している我が国商標法では、商標登録出願人に有利な規定となります。
分割による新たな商標登録出願の出願日が遡ることは、上述の通り、出願人の利益になりますが、例外的に、商標登録出願日を遡らせると逆に商標登録出願人に不利益となる場合がありますので、そこで、商標法第十条第二項ただし書きで、そのような場合は「この限りでない」とされ、出願日を遡及しないこととしています。「不利益となる場合」とは具体的には、商標法第九条の「出願時の特例」の適用を受ける場合やパリ条約の優先権の適用を受ける場合の提出書類の提出期間との兼ね合いで、分割による新たな商標登録出願の出願日を遡らせると、これらの書類を提出期間内に提出できなくなる場合です。
具体的な条文は以下の通りです。

「前項の場合は、新たな商標登録出願は、もとの商標登録出願の時にしたものとみなす。ただし、第九条第二項並びに第十三条第一項において準用する特許法 (昭和三十四年法律第百二十一号)第四十三条第一項 及び第二項 (これらの規定を第十三条第一項において準用する同法第四十三条の三第三項 において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。 」

第三項

商標法第十条第三項は、商標登録出願の分割があった場合における、出願時の特例やパリ条約の優先権等の適用を受けるために特許庁長官に提出する書類は、分割による新たな商標登録出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨規定しています。
具体的な条文は以下の通りです。

「第一項に規定する新たな商標登録出願をする場合には、もとの商標登録出願について提出された書面又は書類であつて、新たな商標登録出願について第九条第二項又は第十三条第一項において準用する特許法第四十三条第一項 及び第二項 (これらの規定を第十三条第一項において準用する同法第四十三条の三第三項 において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな商標登録出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。 」